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【アカデミー賞三冠「ノマドランド」】女一人“家無し”で生きる現代のノマドに、アフロ記者稲垣さんが感じた「自由」

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 ファーンもまた車上生活をする中で、老若男女さまざまなノマドに出会い、交流する。

 アクセサリーを手作りする若いノマドに目をかけたり、車のタイヤがパンクしてしまった時には「訪問お断り」の旗を出しているスワンキーに助けを求め、厳しく叱られたり。季節労働者が集まるAmazonの倉庫でも、チーム作業をするメンバーとのコミュニケーションは欠かせない。

©2020 20th Century Studios. All rights reserved.

「一人で生きるって結局、交流することなんですよね。何かを無くすと、むしろ人生は活性化する。それって、この閉塞した世の中の唯一の希望なんじゃないかな」

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 本作の見所の一つは、主演のフランシス・マクドーマンド、彼女が心を通わせるデイブ役のデヴィッド・ストラザーン以外は本物のノマドが出演しているということ。

 38歳の女性監督クロエ・ジャオは、2017年に私費をつぎ込んで撮影した『ザ・ライダー』では、落馬事故の後遺症でロデオを諦めざるを得なくなった若きカウボーイの再生物語を、実際にロデオで大怪我したカウボーイを起用して描いた。当時すでに『ノマドランド』の映画化権を獲得していたマクドーマンドは、トロント国際映画祭で『ザ・ライダー』を観終わるや、「クロエ・ジャオって何者?」と叫んだという。

「野垂れ死にできたら最高だと」

 2人はタッグを組むと、『ノマドランド』でも、実在のノマドに密着するようなかたちで撮影を行った。マクドーマンドはノマドたちと路上や仕事場で交流し、荒野や岩山、森の中へ分け入った。ファーンと深い絆を結ぶボブ・ウェルズ、リンダ・メイ、スワンキーは実在のノマドであるだけでなく、本人役で出演する。

(左から)スワンキー、ボブ・ウェルズ、リンダ・メイは実在のノマド。本人役で出演する。©2020 20th Century Studios. All rights reserved.

 車上生活者向けのホームページやYouTubeを運営するボブ・ウェルズはこう語る。

「以前はワゴン車で暮らす怠けもののホームレスでした。あるとき、不思議なことがおこりました。――車で放浪の旅に出たのです。それが性に合い、自由になれたのです。それまで、世の中の言うことを全部やってきました――定職につきなさい。結婚しなさい。子どもを持ちなさい。家を買いなさい……でも、ちっとも幸せになれませんでした。そこで、世の中が言うことの反対をしたのです。すると、初めて、幸せになれた」