昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載クローズアップ

家を失いRVでの生活を強いられた高齢者たち……「現代のノマド」は誰にでも起こりうる

クロエ・ジャオ(映画監督)――クローズアップ

2021/03/31

『ノマドランド』(3月26日公開)は今年のアカデミー賞で6部門にノミネートされ最有力候補に挙げられている。監督は中国出身にして今のハリウッドを牽引するクロエ・ジャオ。第78回ゴールデン・グローブ賞でも、作品賞と監督賞を受賞。監督賞を受賞した2人目の女性となり、アジア人の女性監督としては史上初の快挙となった。授賞式でも、「『ノマドランド』は、悲しみと癒しを通した巡礼の旅についての作品です。だからこれは人生で困難かつ美しい旅を経験したことのある全ての人達のために作りました」と語った姿が印象的だった。これまで超低予算ながら独自の手法で新たなリアリティを捉え、批評家から絶賛される作品を作ってきた彼女は、今作も「フラン(主演のフランシス・マクドーマンド)とスタッフの約25人でRVに乗って5カ月旅をして、ノマドの生活をしながら出演者を探した」と語る。

クロエ・ジャオ監督 ©Jake Sigl

 この作品は、2008年に起きた世界金融危機で家を失いRVでの生活を強いられた「現代のノマド」と言われる高齢者を描くロード・ムービー。夫を失ったマクドーマンド演じるファーンが人生の終わりに差し掛かり自分探しの旅に出る瞑想のような映画だ。

「旅は人に選択を強いる。でもどん底に陥り、『失うものはなにもない』という状況に直面すると、人はより勇気のある選択をするし、自分を再発見し、新しい人生を作る機会を与えられる。もしかしたら今、コロナ禍でそう思っている人たちもいるかもしれない。現在、高齢者差別という社会の乱暴な病が蔓延する中、ノマドになった高齢者の人たちの強さを見てインスパイアされた。喪失についての映画であり、ファーンが対峙する悲しみが描かれている。でも希望や光についての映画でもあり、そこがすごくアメリカ的だと思った」

 今作で目を惹くのは資本主義社会の犠牲となった高齢者の痛みとアメリカ中西部の美しい風景だ。前大統領のトランプ支持者の多い州でもあり、ジョン・ウェイン主役の西部劇の舞台となってきたアメリカのマッチョイズムを象徴する場所とも言える。が、ジャオ監督にはそれを批判する視点はなく、むしろ現在二極化する世界を柔らかな光で優しく包み込むのが新鮮なのだ。

「いかに自然がファーンを癒し、彼女が自然と一体になるのか、を描こうとした。それに、家から追い出されて、車に住んでいたら、自然を愛する人でなかったとしても、自然を理解するようになると思う。自然の脅威は人を謙虚な気持ちにさせる。でも巨大な台風が目の前に来た時に私たちは、まず人間であることを自覚し、人間として隣の人を助けようとすると思う。その人がトランプに投票したかどうかは関係なくなるはず。その自然の力が私にはすごく大事だった。それから今回旅して分かったのは、ノマドになる人に特定のタイプがあるわけではないこと。明日私がなるかもしれないし、あなたがなるかもしれない。誰にでも起こりうることなの」

Chloé Zhao/1982年、北京生まれ。14歳でロンドンの寄宿舎入校、LAの高校卒、ニューヨーク大学で学ぶ。過去長編に『ザ・ライダー』(2017年)など。次回作はマーベルの大作『エターナルズ』。

INFORMATION

映画『ノマドランド』
https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー