生徒たちをバカ呼ばわりし、現実を突きつける桜木
どうやったら偏差値30台の人間を、東大へ送り込めるのか? 受験全敗の俺にとっては興味津々になったし、特進クラスの生徒たちとマインドを同期させて見ることができた。
まずは、桜木に惚れた。彼は偏差値30台の生徒たちを、ひたすらバカ呼ばわりし、彼らを取り巻く現実と待ち受ける未来を突きつける。
借金取りにボコられていた矢島勇介を助けるも、「助けてくれなんて頼んでねぇから! その気になればあんなヤツら、ひとりでイケんだ」と食って掛かられる。桜木は間髪入れずに「負け犬はみんなそう言う。その気になればやれる。ただ、いろいろあってやれなかっただけだってな」と返す。
女手一つで小料理屋を切り盛りする母親から「バカなんだから勉強しないで店を継げ」と言われ続けてきた水野直美に「東大に行きたくないか?」と特進クラスに誘うも、「なんで、私が東大に行かなきゃいけないのよ?」と返される。が、桜木は「ほんとにバカなんだな」「東大出りゃ、人生180度変わるんだ。おまえだって薄々感じてんだろ? このまま行きゃ、ロクな人生じゃないってな」「せいぜい、親の商売手伝うか、家出してフリーターやって、金欲しさに風俗やったり」と容赦なく畳み掛ける。
桜木のリアリスト極まりない姿勢
『ドラゴン桜』の放送は2005年。その前年には同じTBSで同じ学園ドラマである『3年B組金八先生』第7シリーズが放送されていたが、まさかの覚醒剤が飛び出すエクストリームな展開と相変わらずの金八先生の聖人的教師ぶりになんともいえぬチグハグさを感じていた。
桜木はそんな不満を解消してくれる破格にして痛快なキャラクターだったし、なによりも勉強ができない生徒をバカと呼ぶリアリスト極まりない姿勢が爽快だった(無論、生徒を思っての行動)。高学歴の人に「別に学歴なんて関係ないですよ」と諭されるたびに「気を使われているな」と感じた自分にとって、桜木の放つ「バカ!」は俺の学歴アイデンティティーにまつわるマゾヒスティックな部分をいたく刺激してくれたのだ。