新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年の落語界は未曽有の危機的状況に陥った。
安倍首相(当時)からイベント自粛を求める声明があった2月26日以降演劇など多くの興行が中止/延期となったが、落語に関しては“消毒/マスク着用/換気”を徹底して開催した会も多く、3月末までは僕も従来どおり毎日のように落語会へ足を運んでいた。
潮目が大きく変わったのは東京オリンピック/パラリンピックの開催を1年延期すると首相が発表した翌日、小池東京都知事が会見で“3つの密”を避けるよう強く訴えたことだ。これ以降、公演自粛の動きが急速に進み、4月7日の緊急事態宣言発出により寄席も休業、首都圏すべての落語会が中止/延期となった。
落語と“生配信”の相性の良さ
もうナマの落語は当分聴けない。そう思って絶望していた僕を救ってくれたのが、オンライン配信落語だった。
真っ先に動いたのは橘家文蔵後援会「文蔵組」主催の「文蔵組落語会」。4月9日の第1回は文蔵と三遊亭兼好の二人会。以降春風亭一之輔、立川談春、柳家喬太郎など豪華ゲストを迎えて4月中に4回実施。5月以降も精力的に開催された。
4月14日には産経新聞社が「超落語Produced by S亭@ニコニコネット超会議2020 小痴楽・宮治二人会」を有料生配信。この日に文京シビックホールで行なわれるはずだった二人会に替わるものとして企画されたものだった。この“ネット超会議での無観客配信”は5月21日にも宮治独演会として実施されている。
上野鈴本演芸場で4月下席夜の部トリが予定されていた春風亭一之輔は4月21日から10日間、高座に上がるはずだった時間に無観客で落語を演じてYouTube「春風亭一之輔チャンネル」で無料生配信を決行。連日1万人を超えるユーザーが視聴したこの企画が落語配信ブームの火付け役となったのは間違いない。一之輔は浅草演芸ホールの夜のトリを取るはずだった5月下旬にもこの「10日間連続無料生配信」の第2幕を実施、これまた大好評を博した。高座の上での一人芸である落語と“生配信”との相性の良さを、一之輔は証明してみせたのである。
そして5月になると「文春落語オンライン」が始まる。