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施設ごとに異なる「治療内容の闇」

 東京都内在住の44歳のBさんは現在不妊治療真っ最中だ。治療のスタートは42歳。妊娠するにはかなり厳しい年齢であることを自覚し、とにかく効率よく適切な治療を受けたいと願った。しかし、いざ通院先を選ぼうにも、施設ごとに手技や検査内容も違えば、全施設が治療成績を公表しているわけでもないため、どこを選んでよいか分からない。

「結局口コミを頼りにクリニックを選んだのですが、私の場合、卵子はある程度取れるのですが、受精させてもなかなか移植に適した胚まで育たない。思い切って転院したら転院先で夫に精索静脈瘤が見つかり、精子の質と量の低下に繋がっている可能性があると言われました。ここに至るまでに2年。卵子の老化もあると思いますが、不妊症の原因の半分は男性側にあると言われています。最初の施設で夫の検査もしてくれていたら無駄に時間とお金をかけずにすんでいたかもと思うと、複雑です」(Bさん)

©iStock.com

 技術格差も問題だ。たとえば、不妊治療の要である受精卵の培養。卵子と精子を合わせて受精卵を作り育てるのは胚培養士の仕事だが、「正直、施設間や個々の胚培養士の技術差はかなり大きい」と生殖医療専門のコンサルティング事業を立ち上げ、複数の施設で胚培養の指導にあたる川口優太郎氏は打ち明ける。

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「受精卵の状態や分割の早さ、細かなグレードなど、着床に影響するポイントを見極めるには胚培養士の実力がものを言います。都心と地方、大手と中小では扱う症例数が圧倒的に違いますから、それが技術差に表れている点は否めません。少しでも成績を向上させようと研究熱心な培養士もいれば、ただ目の前の仕事をこなすだけの胚培養士もいて、意識の差もある。近年はタイムラプスインキュベーターという受精卵の経時的変化がモニターできる培養器が開発され、胚培養の技術を大幅に補ってくれるようにはなりましたが、高額な機器のため未導入な施設も多い。胚培養士の観察眼や技術力は依然問われますし、国家資格化を求める声もあるように、胚培養士の意識と質の底上げは急務です」

 保険適用に向け、こうした課題を解消しようと、今まさに治療ガイドラインの作成や施設による治療成績の公表を求める声が当事者間で噴出している。この点について前出の石原氏はこう指摘する。

「各施設の治療成績公表が義務となると、成績を上げるために患者の選別に繋がるのは明らかで、非常に難しい問題です。治療ガイドラインについては日本産科婦人科学会が厚生労働省に請われガイドラインを手掛けたところですが、一人ひとり背景の異なる患者さんに対応する治療が必要なため、一律の基準を示すことは困難です。治療成績の収集も、本来なら学会任せにせず、国主導、国負担で全患者さんのデータベースを作る、あるいは治療内容を客観的に評価する管理機構を設けるのが先だと思っています」

 なかなか一朝一夕には解決しない不妊治療の闇。だが一方で石原氏はこうも語る。

「保険適用がすべてを解決するわけではないですし、当初は混乱もあると思います。ただ、ようやく議論の端緒についた。いろんな意見はありますが、不妊治療を受けたいと願うすべての人が適切な治療を受けられる制度設計となることを切に願っています」。

 不妊治療の闇が明るみに引きずり出されようとしている。