1ページ目から読む
2/3ページ目

あまりに高額な治療費、しかも妊娠するまで何度も支払う

 調査研究の研究班座長を務めた埼玉医科大学病院婦人科・生殖医療担当診療部長で教授の石原理氏は話す。

「自由診療ですから施設間で価格差が出るのはやむを得ません。たとえば私の職場のある埼玉県の過疎地帯では1回の体外受精は30万円程度ですが、都心部で土地代や人件費がかさめばそれだけ高額化しますし、その地域で価格競争があるかどうかでも費用設定が変わります。また卵巣刺激法によって薬代も違いますし、顕微授精や受精卵の凍結の有無、さらに受精卵の遺伝子検査などオプションの検査を行うかどうかでも大きく変わります。こうした要素で負担額に差が出ているのが現状です」

 確かにメンバーの治療費の内訳をみると、顕微授精の費用や不育症による流産対策薬、遺伝子の数的異常を調べる着床前スクリーニングの検査費などが含まれている。ただ、オプションの違いはあっても、これが子どもを一人授かるために実際に支払った金額なことは確か。助成金を考慮しても個人で負担するにはあまりに高額なうえ、妊娠に至るまで何度も支払うことになる。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

問題は治療費だけではない

 一方、来春からの保険適用により、体外受精に公定価格がつけられ、3割負担になれば、費用の負担が減り治療の見通しが付きやすいと考えるが、状況はそう単純ではないという。

「たとえば体外受精1回あたりの価格が30万円の場合では、現行の1回一律30万円の助成金ですでに費用が賄えています。また、自治体によっては国の助成金にさらに上積みしているところもあり、実質自己負担ゼロで治療を受けている方も一定数いらっしゃるのです。それが保険診療となって3割負担となると、体外受精が30万円の場合9万円の自己負担が生じ、特に地方で収入の低い方にとっては負担が増える悪平等になる可能性もあるのです」(石原医師)。地域によっては保険適用を歓迎しない向きもあるという。

 しかし、治療費の高い都心部の医療機関で治療を受け、共働きのため所得制限に引っかかり助成金を受け取れなかったり、あるいは助成金では到底賄いきれない費用を払い続けてきた夫婦にすれば、それこそ悪平等を今まで被ってきた。そうした夫婦にとって、不妊治療の保険適用は長年の悲願といえる。

 また、単に治療費の問題が解消すればいいというわけではない。現在不妊治療中のBさん(44歳)はこう話す。「都心部ゆえに価格が高いのは仕方ないことではあります。それでも納得できないのは、今受けている治療が自分にとって最適な治療法なのかが分からないまま、高額な治療費を払い続けている現実です」