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「今日はオマエがヒーローになる」と一発を予言していた男

 ホームランを期待していた指揮官と共にもう一人、この一発を予言していた選手もいる。フランク・ハーマン投手だ。最終回の攻撃が始まった時、ベンチでバットを握り出番に備えていた岡に話しかけた。「今日はオマエがヒーローになる」。そう言うとバーバード大学卒の助っ人はウィンクをした。

 岡はその一言で落ち着くことができた。「あの一言があったから冷静に少し肩の力を抜いて打席に入れました」と振り返る。強烈なインパクト音を残し打球は幕張の夜空に舞い上がった。その瞬間、予言者ハーマンは誰よりも先にベンチを飛び出し、ヒーローがホームを踏むのを待った。そして戻ってきた岡に「オレの言ったとおりだろ?」とニコリとほほ笑むと二人で笑った。

 ハーマンは直感的に予想したのではない。「相手のピッチャーはストレートが持ち味の選手。そして岡はストレートを打つのがとにかくうまい。ストレート勝負で岡なら打ち返すと思っていたんだ」と解説した。岡も打席ではストレートを狙っていた。「ストレートが強い投手。それに負けずに差し込まれないようにという意識。目付けは真ん中付近。しっかり振り切って押し込めた」と、してやったりだ。人生でサヨナラヒットすら打った記憶がないという男が劇的サヨナラ本塁打を振り返った。

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岡選手とハーマン投手 ©千葉ロッテマリーンズ

 劇的ヒーロー誕生を誰よりも喜んだのは、もちろん井口監督だ。春季キャンプから好調な姿をしっかりと見ていた。「キャンプから今までにないようないい感覚で打っていた。間の取り方もよくなっていたし、なによりも前の打席の結果を引きずらなくなった。凡打をしてもリセットして取り組めるようになったのは大きい。誰もが認める力を持っている選手。これまで自分でも歯がゆい部分はあったと思うが、このまま一年間やってくれたら間違いなくシーズン最高の結果を出すことが出来る」と目を細め、さらなる活躍に太鼓判を押す。

 この本塁打にはもう一つ、語らなくてはいけないことがある。打ったバットにヒビが入り割れていたことである。「知らなかった。後から気が付いた。折れてホームランを打ったことはボクもビックリ」と岡が言えば、藤岡も「バットを折りながらホームランなんてエグイ」と目を丸くした。驚異のパワーが生み出した一発でもあった。

 ファイターズからトレードで入団し移籍4年目のシーズン。これまではなかなか満足いく結果を出すことはできなかったが昨年から取り組むフォーム改造が実を結びつつある。手首の使い方とボールをひきつけて体の近くで回転しながら打つ意識。身体の状態が良いこともありフィットしている。

「これまで沢山、チャンスをいただいたのに結果を出せずに、もどかしかった。今年は活躍をしたい。現状に満足せずにもっともっとチームに貢献しないといけない」と岡。もう「ヒロミナイト」は過去の事とばかりに話をする。伝説の折れたバットも家宝にと大切にするのかと思いきや「ファンの皆様にプレゼントしたい」と球団公式Twitter上で募集しファンにプレゼントした。そしてこうも言った。「えてしてよくあることですけど、20年ぶりの後はすぐに出たりするものですよ。フフフ」と不敵な笑みを浮かべた。4月21日、劇的な形で幕を閉じた試合の中には様々なドラマが織り込まれていた。そして2021年シーズンのマリーンズはこれからもっともっとたくさんの劇的ドラマを生む一年となりそうだ。岡スマイルを見て、そう確信した。

©千葉ロッテマリーンズ

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