9年間、ノドに刺さり続けた「金本スピーチ」のひと言

 2021年4月9日、ハマスタの場外に消えていった佐藤輝明選手のホームランと、ここまでなかなか勝てずに苦渋に満ちた三浦大輔監督の表情を見ながら、唐突に思い出した言葉があります。

「選手より監督が目立つようではだめだと思います」

 2012年10月9日の甲子園球場、「鉄人」金本知憲選手が引退セレモニーで、対戦相手であったベイスターズの選手に向かって発した言葉です。

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 2012年は、DeNAベイスターズになって1年目の年でした。中畑監督のパフォーマンスでチームが明るくなっていく希望と、それでも最下位から抜け出せず、先が見えない不安の入り混じったシーズン。

 そんな中で発せられたこの言葉は、金本選手一流のユーモアであり、本気の激励でもあったと今ではわかります。ただ当時、「チームが消滅するかもしれない」という危機を味わったばかりで精神的に疲弊していた私には、その言葉に頭をガツンと殴られたような気がしたものです。

 あれから9年の月日が経ち、ベイスターズもあの頃に比べて大きく変わったと言えるようになりました(今季はともかく)。

 しかし、あの金本選手の言葉は今でも、のどに引っかかったとげのように、たまにチクチクと痛み出すのです。

「そうだ、我々はあの『宿題』を果たしたんだろうか?  監督より選手が目立つようなチームに、ベイスターズはなったのだろうか?」

 そして、もう一つ、ふと疑問が湧いてきました。

「あれ、この言葉ってそのまま金本監督にも当てはまってないか?」

 そこでこの10年来のモヤモヤを解消すべく、調査を開始することにしたのです。

©文藝春秋

「監督と選手、どっちが目立っている?」をひたすら調査

「目立っている」ことをどう調べればいいかは難しいところですが、「検索数」は一つの基準になると思います。そこで、ウェブマーケティングの世界でよく使われている「グーグルトレンド」という検索数が比較できるツールを用いて、監督と選手の当時の検索数を比較してみたいと思います。異論はあるかと思いますが、「より検索されたほうがより目立っていた」ということです。

 そして、「当時の監督よりも検索数が多い=目立っている選手がどれだけいるか」を、年ごとに比較してみたいと思います。

 膨大かつ単純な作業で、途中で心が何度も折れそうになりましたが、「ロベルト・スアレスという麻薬密売人のボスがいる」ことを知ったり、「サラサー」という選手の名前を10年ぶりくらいに思い出したりと、発見の多い作業でもありました。

和田監督時代はタイガースの圧勝

 さて、タイガースとベイスターズそれぞれで調べたその結果を、試合形式にて報告したいと思います。

《2012年》
〇タイガース10―2ベイスターズ●

・タイガースで監督(当時は和田豊監督)より目立っていた選手(数値大きい順)
金本知憲
鳥谷敬
マートン
藤川球児
新井良太
新井貴浩
能見篤史
ブラゼル
平野恵一
上本博紀

・ベイスターズで監督(当時は中畑清監督)より目立っていた選手(数値大きい順)
ラミレス
中村紀洋

 タイガースの和田監督よりも目立っていた選手の数は10人、一方、ベイスターズの中畑監督より目立っていたのは2人。実に5倍の差がありました。しかも、ベイスターズで中畑監督より注目度が高かったのはラミレス選手と中村選手という、移籍してきたばかりの選手のみ。これでは金本選手に指摘されても文句は言えません。

 ちなみにこの先2015年までは、ずっと和田監督と中畑監督になります。

《2013年》
〇タイガース9―3ベイスターズ●

(タイガース)
鳥谷敬
藤浪晋太郎
西岡剛
能見篤史
福留孝介
マートン
新井良太
新井貴浩
スタンリッジ

(ベイスターズ)
ラミレス
中村紀洋
三浦大輔

 点差は縮まりましたが、やはりその差は圧倒的。ベイスターズに生え抜きの三浦投手がランクインしたのが今後の希望を感じさせます。

 ちなみに調べ方によってはベイスターズの藤井秀悟投手も入ってきたりします(グーグルトレンドの数字は同じ条件で調べてもなぜか少しだけブレが生じるので)。ネット活動に積極的だった藤井投手ならではでしょう。それでも9-4でタイガースの圧勝。

《2014年》
〇タイガース13―4ベイスターズ●

(タイガース)
鳥谷敬
西岡剛
福留孝介
藤浪晋太郎
能見篤史
マートン
新井貴浩
上本博紀
呉昇桓
ゴメス
梅野隆太郎
新井良太
今成亮太

(ベイスターズ)
中村紀洋
グリエル
三浦大輔
筒香嘉智

 タイガースが前年、前々年を上回る13得点を達成する一方、「采配批判事件」で悪目立ちしてしまった中村選手と、鳴り物入りでキューバから飛行機で来日し、飛行機が揺れるのが怖いと沖縄遠征を拒否したグリエル選手がベイスターズの上位を占めていることを考えると、「注目を集めることは是か非か」みたいな神学論争を仕掛けたくもなります。

 ちなみにタイガース上位の西岡選手も、どちらかというと「日本一決定守備妨害」で注目を集めてしまった感があります。

《2015年》
〇タイガース11―3ベイスターズ●

(タイガース)
藤浪晋太郎
鳥谷敬
マートン
福留孝介
西岡剛
能見篤史
呉昇桓
上本博紀
新井良太
江越大賀
梅野隆太郎

(ベイスターズ)
筒香嘉智
三浦大輔
山崎康晃

 このように、2012年~15年は誰が何と言おうとタイガースが圧勝だったことがわかります。ベイスターズも生え抜きが顔を出すようになるなど希望は見えますが、まだまだ「金本選手の宿題を果たした」とはいえないようです。