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ブーメラン、ブーメラン

 しかし、その潮目が変わる時がやってきます。だいだい予想がついていると思いますが、2016年の金本監督の就任です。

 ちなみにその年、ベイスターズもラミレス新監督が就任。2012年にそれぞれのチームで注目度トップだった両選手が、くしくも監督として「監督と選手のどちらが目立っているか」を競い合うこととなったのです。本人同士は1ミリもそんなこと考えたことはないと思いますが。

《2016年》
●タイガース0-2ベイスターズ〇

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(タイガース)
なし

(ベイスターズ)
筒香嘉智
三浦大輔

 あまりに劇的な変化に思わず二度見してしまいましたが、事実でした。タイガースがゼロということはまさに、「この年に所属していたタイガースの選手全員が、金本監督より目立っていなかった」ということです。昨年までの上位常連の鳥谷選手も藤浪投手も金本監督にはかなわず、この年復帰した藤川球児選手にも圧勝。

 ぶっちゃけベイスターズもどっこいどっこいですが、この年引退した三浦投手への注目もあり、なんとか2点をたたき出しています。

 本記事のテーマである「金本選手からの宿題をベイスターズは果たしたのか」については、この年をもって「宿題を果たした」と言っていいのではないかと思います。もっとも、ベイスターズが成長したというより、敵失で勝った感がすごいですが。

 2012年に金本選手が引退セレモニーで発したあの言葉は、4年かけてブーメランのように金本監督自身に命中したわけです。

 ちなみにその後は、

《2017年》
〇タイガース3-1ベイスターズ●

(タイガース)
鳥谷敬
藤浪晋太郎
糸井嘉男

(ベイスターズ)
筒香嘉智

《2018年》
●タイガース0-1ベイスターズ〇

(タイガース)
なし

(ベイスターズ)
筒香嘉智

 というしびれる投手戦のような展開が続き、2018年には再び金本タイガースが0封を達成しています。

 そして金本監督はこの年をもって辞任。私には「監督が選手より目立ってはいけない」を地でいった、潔い辞任に思えてなりません。

 この「監督より目立っている(検索数の多い)選手が何人いるか」という数字を「KMD値」と名付けたいと思います。ちなみにKMDとは、「監督(K)が目立っては(M)ダメ(D)」の略です。

 経年でこの数値を比較すると、以下のグラフのようになります。

 

二人のルーキーに期待する「監督越え」

 その後、2019年にタイガースに矢野燿大監督が就任すると、タイガースはKMD力(なんだそれ)を一気に回復します。一方、2019年に筒香選手が大リーグに移籍したベイスターズは、ついに2020年に「KMD0」を達成してしまいます。

《2019年》
〇タイガース7-1ベイスターズ●

(タイガース)
鳥谷敬
藤浪晋太郎
近本光司
糸井嘉男
藤川球児
福留孝介
梅野隆太郎

(ベイスターズ)
筒香嘉智

《2020年》
〇タイガース9-0ベイスターズ●

(タイガース)
藤浪晋太郎
藤川球児
ボーア
西勇輝
大山悠輔
糸井嘉男
福留孝介
サンズ
梅野隆太郎

(ベイスターズ)
なし

 2012年10月9日、金本選手が甲子園球場で発したあの言葉は、ブーメランとなって金本監督にぶち当たったあと、跳ね返ってベイスターズの額に深々と突き刺さったというわけです。

 ただ、当時は反発を覚えたあの金本選手の言葉ですが、今思えば至極まっとうな、普遍的な真理であると思えます。

 急に自分の話をするのもあれですが、私自身、2012年と比べ、仕事上での部下や後輩の数も増えました。だからこそ、なおさら思います。「上司が部下より目立っているようではダメ」だと……。

 そのことを教えてくれたのが、あのひと言だったのだと思います。

 そして2021年、タイガースには佐藤輝明、ベイスターズには牧秀悟という、「監督越え」を十分狙える選手たちが入ってきました。

 きっと二人が「監督より選手が目立っているのが当たり前」なチームに向かって牽引していってくれるはず……そんなことを考えながら、今後もたまに「KMD値」を調べたりしていきたいと思います。

 

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