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期待するからこそ。ドラ1・木澤尚文に川崎憲次郎が漏らした“気になること”

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/05/20

 その瞬間、歓喜に叫んだ人は、どれだけいただろう。

©HISATO

 2020ドラフトで、4球団が競合した早川隆久(早大→楽天)をくじで外し、2球団の抽選で鈴木昭汰(法大→千葉ロッテ)を外した東京ヤクルトスワローズ。落胆の声が聞こえるその時に、「え、来るんじゃない?」と自分は興奮の度合いが高まっていた。「東京ヤクルト。木澤な……」「よっしゃぁ!」と食い気味に叫んでガッツポーズ。実際にはパブリックビューイングで静かに見ていたから、叫ぶのは心の中だけにして、ツイートで喜びを表明した。

 アマチュア野球を見ていて「いいな」と思い、「ヤクルトに来ないかな」と思った選手が本当に贔屓のチームに来る。初めて味わう歓喜の瞬間だった。

 木澤尚文。慶應義塾大学のエースでドクターK。最速155キロを誇るパワーピッチャーだ。六大学野球では早稲田大学のエース早川隆久と数々の名勝負を演じてきた。

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 マウンドでの立ち姿がいい。爽やかなイメージからは意外に思える程、体はがっしりとしていて、投げる姿に迫力がある。中身もクレバーで期待値は高い。山田哲人や清水昇の前例もあり、「外れ外れ1位は縁起がいい」と、ヤクルトファン界隈でもドラ1・木澤歓迎ムードが高まった。

「いい意味でガラが悪い」本質

 1月の入寮日、このドラ1は、『野村ノート』(野村克也著)などの書籍とともに、観葉植物の鉢植えを持って入寮した。なかなか丈がある観葉植物は、スッと伸びた細い葉を持つ。本と植物は、木澤によく似合っていた。

 今年は新人合同自主トレの見学も出来ず、キャンプも無観客となり、テレビで見る毎日だった。内川聖一の動向や奥川恭伸の一挙一動に注目が集まり、古田敦也臨時コーチが訪れるなど、話題はなかなか豊富に出てくる。木澤のブルペンを見た古田さんは、「いい意味でガラが悪い」と評した。上品そうな外見とは裏腹に、ピッチングは荒々しい。ブルペンでも気迫が溢れていた。

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 木澤の投球を実際に見られたのは、2月末に浦添に取材に入った時だった。阪神との練習試合の先発として木澤が登板した。ヤクルトのユニフォームでは初めて見る木澤の姿。よく似合っている。時折肌寒くなる浦添でも、常に半袖の元気者だ。試合前のブルペン投球で、木澤は捕手を座らせた状態で、マウンドより後ろから投げていた。

 試合が始まると、一球目から151キロを計測する。やはり並ではない。しかし、この試合で木澤は制球に苦しみ、2回3失点4与四球とふるわなかった。試合後の高津臣吾監督は「まだ練習試合だから」と評価は先に送った。

 結局、木澤が開幕ロースターに残ることはなかった。何度かファームで先発を続けたが、連打で失点したり本塁打を浴びたりし、黒星だけが残った。

 何故なのだろう。球は速い。でも大学の時のようには空振りが取れない。ねじ伏せるような強さにならない。戸田球場でのファーム戦を見た時も、一巡目はしっかり抑えるが、二巡目以降で捉えられてしまうような印象があった。

 その後に投げた杉山晃基の球の方が、「重さ」があるように見えた。

 木澤の動向にやきもきしていた頃、「木澤の投球で気になることがある」という声が聞こえてきた。何が「気になる」のか、とても気になった。