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登場曲は「ロマンスの神様」…上司を喜ばせるファイターズ・万波中正選手の“圧倒的部下力”

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/05/21

『ロマンスの神様』がドームに響き渡る。

♪勇気と愛が世界を救う♪

 この出だしを何度カラオケで歌っただろう。そして思う。努力と笑顔はファンを救う。そう思わせてくれるのは高卒3年目の万波中正選手の姿。1993年のヒット曲が2000年生まれの選手の登場曲として流れている。

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万波中正

「このくらいの時代の曲が好きなんです」

 彼と初めて話をしたのは2軍の試合が北海道で行われた2年前の夏だった。

 万波選手、ルーキーイヤー。2軍の試合が行われる球場はロッカールームも広くなく選手の控え場所があちこちになることも多い。その日も廊下で何人かの選手が着替えや道具の入れ替えをしていて、万波選手は出入口そばのベンチでスパイクを整えていた。私が他の取材を終え、出口に向かって彼の目の前を通り過ぎようとしたとき、彼のイヤホンから懐かしい曲が漏れてきた。あ、これはだめだ、声をかけないわけにはいかない。

――失礼します、HBCラジオの斉藤と言います、少し質問してもいいですか?

「はい! こんにちは!」

 私は選手の、主にルーキーのこの「こんにちは!」に弱い。まだまだ学生時代の名残、外から来た人、知らない人にもきちんと大きな声で挨拶をするという約束事。この時の万波選手はまだ5分の1くらいは高校生が残っていた。

――あの、その曲、どうして聞いてるんですか?

「あ、このくらいの時代の曲が好きなんです、中森明菜さんとかも聴きます」

――お母さまの影響ですか?

 彼のお父さまはコンゴ共和国出身の方なので敢えて「お母さま」としてみた。

「いや、別にそんなことなくて、自分が好きなだけです」

 私は驚いた、その時、聞こえていたのはチェッカーズの『星屑のステージ』だったから。

 私の青春ど真ん中。そのど真ん中をその時には生まれてもいない選手が「この時代が好きなんです」と言う。何だか嬉しくなってしまってそれからは彼の登場曲にも注目した。

『哀しくてジェラシー』『Yeah!めっちゃホリディ』……番組スタッフが「若いのになんでだろ」なんていう度に私はこの日の話を自慢げに説明することになる。そして今年は『ロマンスの神様』。

ファンを惹きつける笑顔と明るい性格

 彼は中学生の頃から注目の的だったと聞く。陸上と野球の二刀流で身長はその頃にもう180cmを超え、恵まれた身体能力からスーパー中学生と呼ばれたそうだ。

 進学した横浜高校・野球部では1年生からベンチ入り、甲子園には3回出場、高校通算HRは40本。

 2018年ドラフト4位でファイターズから指名を受け入団、背番号は66に決まった。ストッキングを外に出すクラシックスタイルは長身の彼によく似合い入団会見の時から彼の笑顔は輝いていた。

 パッと目を向けられた時や会話を始める時にすっと自然に笑顔になれるのはそう簡単なことではない。注目されてきたからこそ、そして、備え持つ良質の人懐っこさがなせる業に思う。その笑顔と明るい性格はファンを惹きつけ、私たちは万波選手の未来の活躍への期待に胸を膨らませた。

 1年目、8月に一度1軍登録はあったもののヒットはなし、2年目は昇格なし。そして迎えた3年目の今年。4月に早々に1軍にあがり初安打を記録、その後抹消されて、コロナ陽性の選手が多数出たために代替選手として5月1日に再登録。

 初めてのタイムリーに初めてのマルチヒットは横浜高校の大先輩のイーグルス・涌井投手から、初めてのヒーローインタビューは東練馬シニアの先輩の杉谷選手と二人でと、初が連続のシーズン序盤を過ごしている。どの解説者に聞いても彼のポテンシャルは素晴らしいと話す、あとはそれがどこで努力とシンクロして爆発するのか。

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