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広島・中村奨成、4年目の飛躍なるか 中学高校時代の“原点”を訪れて得たヒント

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/06/06
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年末年始に足を運んだもう一つの原点

 母校への訪問で得たヒントを手に、もう一つの原点に足を運んだ。中学時代に所属した「大野シニア」の練習場である。年末年始は、時間があればチームのグラウンドを訪れ、黙々と個人練習を続けた。

 大野シニアが毎年1月3日に開く新年会には、プロ入り後も必ず参加してきた。早朝は中学生と一緒に神社まで走って必勝祈願をし、その後にバーベキューをするのが恒例行事。しかし、今年の新年会は新型コロナの影響で中止となり、後輩に自らの目標を伝える機会もなくなった。

 入寮を直前に控えたプロ1年目の新年会では「1年目から活躍します!」と堂々と新年の抱負を語った。しかし、現実は厳しかった。2年目までは昇格すらかなわなかった。プロ3年目を前にした昨年の新年会では、バーベキューを早々に切り上げて、グラウンドの片隅で一人バットを振った。旧交を温める時間さえも惜しいと感じるほどの危機感を抱いていたのだ。

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 中学時代に使用したグラウンドに立つと、気持ちよく打球を飛ばしていた当時がよみがえる。ティー打撃をすれば軟式球が割れて潰れ、フリー打撃をすれば飛距離80メートルを超える柵越えを連発して練習球を消費した。そうやって無心で野球を楽しんでいた頃を思い出しながら、シーズンへの準備を整えた。

 そして、高卒4年目の今季を迎えた。今季初昇格となった4月16日の中日戦では、「2番・左翼」で先発出場。5回の第3打席、鈴木の高め直球を振り抜くと、打球は左翼線で弾んだ。通算7打席目でのプロ初安打。「やっとプロとしての一歩を踏み出せた」。追い込まれてからはタイミングの取り方をすり足気味に変更し、足の上げ幅を小さくした。それでも、大切にしてきた「間」は失われていなかった。その立ち姿には、どこか高校時代の面影があった。

 一度2軍に降格するも、チーム内で新型コロナウイルスの感染が拡大したことで再び1軍から声がかかった。その後は、プロ初打点を挙げて、クリーンアップでの先発も経験するなど徐々に存在感を高めている。

 心配をかけてきた恩師らも安心していることだろう。今度の年末年始は、少しぐらい褒めてくれるだろうか。いや、まだプロとしての第一歩を踏み出したに過ぎない。恩返しは、始まったばかりである。

河合洋介(スポーツニッポン)

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