それならば、週刊少年ジャンプに連載されていた『地獄先生ぬ~べ~』(岡野剛著)や、『DNA2』(桂正和著)の方が規制されてしかるべき「未成年のヌードや性的描写」を含んでいるであろう。なにせ「ぬ~べ~」は舞台が小学校、「DNA2」は主人公が高校生で、際どいおっぱい表現や性描写がバンバンあった。なぜあえて「硬派」な青年・中年向けのバガボンドやベルセルクを自主規制したのか、腑に落ちない。一時の現象ではあったが、このような自主規制が小売店で行われたという事実を取ってみても、これらの条例や法律への反対派の動機が”単なるオタクによるエゴ”ではないことは分かるだろう。
自公民VS社共という対立軸
都条例においても、児ポ法においても、対立の構造は鮮明である。
賛成派は都議会自民党、公明党。当初、都議会民主党は反対の姿勢をとったが、審議の過程で「非実在青少年」などの文言が削除され、より規制の対象や種子が明確になったとして賛成に回った。最後まで都条例に頑強に反対したのは、都議会共産党、生活者ネットである。結果、自公民VS社共(リベラル)の対立軸が鮮明となった。
石原慎太郎都知事(当時)は、2010年の都条例可決を受けて、「当たり前だ当たり前 日本人の良識だよ てめえらが自分の子供にあんなもの見せられるのかね 大人で考えりゃ大人の責任だ(条例の成立は)当たり前だよ、そんなもん」(2010年12月15日 TOKYO MX NEWS)と威勢良い。
一方、遅れて成立した児童ポルノ禁止法も、結局自民、公明、民主、維新、結いの5党が「単純所持」を禁止する同法改正案に賛成し、可決成立。ここでも反対したのは社共である。
都条例、児ポ法改正後の、漫画、アニメ、ゲーム等の状況はどうなったのか。実際の検挙事例は実在の児童を対象としたDVDや動画の所持者ばかりである。反対派が危惧する「性描写を扱う二次創作や漫画、アニメ、ゲームなどの表現者が萎縮する」という状況にはなっていない。私の趣味がそちらの方向に向いていないだけで、愛好家からは「法改正以降、やりづらくなった」とのお嘆きがあるのかもしれないが、いち漫画フリークからすると、現行の漫画、アニメの中に、18歳未満(に見える)未成年者の性描写が顕著に減少したという皮膚感覚はあまりない。
私事で恐縮だが、先日『美少女戦士セーラームーン』の二次創作で、主人公・月野うさぎが「ナニをしてナニをされてナニを以って終わる」という同人誌を読んだ。最近発行されたものらしく実に楽しく拝読したが、月野うさぎは18歳未満(に見える)どころか元来高校生という設定なのだから、都条例や児ポ法を恣意的に運用するとすればアウトである。が、元気に創作されている現状がある以上、反対派が危惧する都条例や児ポ法の際限なき拡大運用というのは、個人的には杞憂という気がする。
この他にも、またも私事で恐縮だが『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の二次創作で、登場人物の安城鳴子が「ナニをしてナニをされてナニを以って終わる」という同人誌を読んだ。最近発行されたものらしく実に楽しく拝読したが、安城鳴子は18歳未満(に見える)どころか元来高校1年生という設定なのだから社会通念上の常識に照らし合わせれば、これすなわち15歳ないし16歳ということになり完全にアウトだろうが、別段この作者が官憲の手入れを受けたという報道を聞かない。