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唯一記載のあるマニフェストは共産党

 さて、このような都や国政を巻き込んだ表現規制の問題。今般、電撃的に行われることになった総選挙で、各党はどのように考えているのか。結論から言えば、表現規制の問題をマニフェストに書き込んでいるのは日本共産党のみである。解散の決断があまりにも急転直下に行われたせいか、自民・公明・希望・維新の各党はもとより、リベラル派とされる立憲民主党、社民党も表現規制問題には一言も触れていない。

 どころか、漫画・アニメといった日本が誇る文化の育成などといった政策についても、自民党が僅かに「クールジャパン」の文脈の中で触れているだけで、目立ったイシューにはなっていない。やはり2017年衆院選の電撃的な展開が、表現規制や文化政策への関心を、マニフェストから遠ざけたのだろうか。唯一記載のある日本共産党のマニフェストは、次の通り。

〈「児童ポルノ規制」を名目にした漫画・アニメなどへの法的規制の動きに反対します〉

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 簡素なこの一文。たったこれのみである。これすらも、特定秘密保護法や共謀罪への反対、〈第2次安倍内閣の発足以降、各地の美術館や図書館、公民館など公の施設で、創作物の発表を不当な理由で拒否するなど、表現の自由への侵害が相次いでいます〉など、安倍政権への批判という反政権の延長線上で語られているのであり、漫画製作者等の危惧や懸念を内包した提言なのかどうかは疑問が残る。

漫画・アニメの優先順位は低い? ©iStock.com

 安倍政権への信・不信任、消費税増税分の使途、北朝鮮をはじめとする国家国防問題、アベノミクスへの賛否、または憲法改正への是非といった優先順位の高い関心事に比べて、一部のアニメ・漫画オタ界隈より従前から提示され続けてきたとはいえ、表現規制問題はほとんど争点にかすってすらいないと言える。すでに成立・施行されてしまった都条例と児ポ法の「適正運用」を見守る、といったところが現下の反対派の主要な動静であろうか。

禁制とされればされるほど燃え上がる

 ちなみに、改正都条例も児ポ法もなかった1990年代中盤から後半、中学・高校生だった私は、他の男子生徒がそうであったように性的コンテンツに対し並々ならぬ興味を抱いていた。14、15歳の童貞少年だから、当然同世代の異性は性の対象に入ってくる。

 当時は「女子高生がケータイサイトで援助交際」などがさんざ社会問題とされていた時代で、ほとんど同い年ではないかと思われる異性のあらわな姿や局部が投稿(盗撮)写真として雑誌に堂々と掲載されていた。

 また、まだ黎明期であったネットの世界にも、おそらく18歳未満の未成年キャラクターを主人公とした性描写のある二次創作が溢れていた。社会現象になっていた『新世紀エヴァンゲリオン』。当時の男子学生は、綾波レイ(設定上は14歳――ただしクローン人間のため厳密には異なる)、惣流・アスカ・ラングレー(設定上14歳)、葛城ミサト(設定上29歳)の三大女性キャラクターのうちのどれかの派閥に収斂され、大体、6対3対1、もしくは5対3対2の割合だった。

 私は断然ミサトさん派で、マイノリティだった(当時の私の年齢の15歳上)。しかし14歳の少年が、14歳の非実在青少年の裸を描いた二次創作にハァハァするのは普通のことだと思う。よしんば当時の大人が、綾波やアスカを描いた性的な二次創作に隠れて欲情していたとしても、誰が咎めることができようか。

 表現規制反対派の「萎縮・自主規制」への危惧は現段階ではおおむね問題のないレベルで、些か過大に聞こえるが、人の世というのは禁忌、禁制とされればされるほどますます燃え上がるのは必定なので、やみくもな拡大運用には反対だし、それを僅かにでも論ずる国政政党が今般総選挙において共産党一党だというのは、やや頼りない。