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「遠藤夫妻から花が届けられませんでしたか」

 こんな尋問を延々と続ける意味があるのだろうか。もっと明らかにしなければならないことがあると私は傍聴席で焦れるような思いでいた。そんな傍聴席の思いなどよそに、佐藤弁護士の尋問は同じところを繰り返している。

「それから、年明けて平成24年、それは亡くなった翌年の7月。函館、道南地方は、いわゆる旧盆ではなく新盆でやるものですから、この7月というのは天聖君の新盆になりますよね、当然そうですよね」

「はい」

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「そのときに、遠藤夫妻から花が届けられませんでしたか」

「はい、届いています」

「それから、平成24年12月16日の命日、この日にも花が届いていますね」

「いいえ、受け取りませんでした」

「平成24年ですよ。一周忌の命日ですよ」

「ああ、裁判になってからは受け取るのをお断りしたので……この時点ではお気持ちを跳ね返しては、大人としてあれかなと思って、どういうつもりでと思いながらも受け取りました」

「昨年のお盆、7月のときには、遠藤からお花を飾りたいという申し出があったようですね」

「直接は、お電話は来ていません。いつも花屋さんです」

「それは、どうしましたか」

「受け取れませんとお断りしました」

「どうして断ったんですか」

「それは、裁判が始まっているのに、どうして平気でお花を送って来られるのかなという思いです。あなたたちがああいう態度だったから、こんなことになったのに……」

「(陳述書に)『そしてある日、主人は遠藤医師に電話をしました』とありますね」

「はい」

「あなたは、そばで聞いていたでしょう」

「そばにいません。主人は2階で電話をしていましたので」

 佐久間弁護士が立ち上がった。佐藤弁護士が読み上げた光の陳述書を、佐久間弁護士も示して見せた。

「訴訟に至るまでの経緯のところですね。『天聖が生まれてから、遠藤医師と奥様とは何度か面談を重ねておりました。いつも遠藤医師が『次はいつお会いできますか?』というように言ってくる感じで、時間を決めて会っておりました。正直な気持ちを言いますと、なぜミスした張本人と私たちが会わなければならないのか……苦痛でした。しかし、天聖や家族に対して心を尽くしたいと言ってくださった以上、私たちは怒りを堪え、天聖のためにもしっかりした話し合いが必要だと思いました』と書いていますね」

「はい」