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ダウン症と中絶が合わせて語られること

 活火山である霧島山が近くにあり、自宅の風呂に温泉が出るという岩元の家を訪ねた。岩元は、メガネの奥の瞳が印象的な女性だ。隣に両親が付き添っているが、自分自身の言葉ではっきりと話す。

「えらそうに出生前診断を受けないで欲しいと言える立場でもないけれども、でもダウン症当事者としては今一度見直すべきだと思います。生まれてからわかる障害もたくさんあるのに、どうしてダウン症だけが対象になるのでしょうか。検査はダウン症を否定することになると思います。出生前診断への怒りはあるけれども、どこに怒りをぶつけていいかわからない」

 そして、大きく息を吐いた。

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「怒りを通り越して悲しみの方が大きい」

 当事者の中にはテレビなどの報道で出生前診断について知った時に、「自分なんか生まれてこないほうが良かったのか」と悲しむ人もいるという。

 そのため、日本ダウン症協会はダウン症当事者に向けたメッセージを作成した。

「新しい検査のニュースを見ましたか?」という文言で始まり、テレビや新聞では「ダウン症」と一緒に、「中絶」という言葉が出てくることを説明して、こう続ける。

〈こうしたニュースなどを見たり聞いたりすると、「ダウン症」は生まれてくると困ると言っているように思えます。それで、「ぼくは(わたしは)生まれてこないほうがよかったの?」とわたしたちに聞いた人もいます。

 

 いいえ、けっしてそんなことはありません!

 

 わたしたちは、みなさんが生まれてきたことに心から「おめでとう」と言います。みなさんがわたしたちの家族や友だちとしてそばにいてくれることに心から「ありがとう」と言います。

 

 みなさんは、勉強が苦手だったり、仕事が上手にできなかったりすることがあるかもしれません。でも、それは、どんな人にもあることです。

 

 みなさんは、「ダウン症」のない人と同じように、泣いたり、笑ったりしながら、家族や友だちと暮らしていますね〉

 ダウン症と中絶が合わせて語られることに傷つく人たちがいる。

 岩元は出生前診断についてその意味を知っていたし、深く考えていた。