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「生まれてからわかる障害もたくさんあるのに…」ダウン症当事者が明かす出生前診断への悲しみ

『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』より #2

2021/06/08

source : 文春文庫

genre : ライフ, 読書, 社会, 医療

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なぜ胎児ばかりがチェックされるのか

 NIPTで陰性だと言われれば、我々は安心して出産に臨めるものなのだろうか。

 NIPTの検査の対象となる三つの疾患、すなわち13トリソミー、18トリソミー、ダウン症候群についてはかなりの精度が期待できる。NIPTコンソーシアムが2013年4月から2016年3月までの3年間行った臨床研究の報告では、NIPTでたとえばダウン症が陰性とされたにもかかわらず、実際にはダウン症の子が生まれてきたのは1万人に1人であり、きわめて例外的なことであることがわかる。

 しかし染色体のすべての疾患のなかでこの三つが占める割合は70パーセント強であり、残り30パーセント弱の疾患はNIPTではわからない。そもそも一般的な新生児の3~5パーセントは何らかの病気をもって生まれてくる。このうち、染色体に原因があるものは4分の1程度といわれているので、仮にNIPTで陰性であっても先天性疾患全体の20パーセント以下しか否定できないことになるのだ。

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 なぜ胎児ばかりがチェックされ、異常が弾かれていくのか。重篤なアレルギーがあれば中絶するのか。重篤な心臓病があれば、癌の遺伝子があれば中絶するのか。これから胎児の遺伝子検査が進み、望めば生まれる前に多くのことが判明する社会になるだろう。

写真はイメージ ©️iStock.com

 多様な子どもたちと生きる知恵とは何か。

 無力な私には、答えはまだ出せない。