新型出生前診断(以下、NIPT)とは胎児の染色体異常を推定する出生前検査の一種だ。採血だけで済むため流産の危険性がなく妊婦の負担も軽い。陰性の場合の的中率も高く、 妊娠10週頃から受けられる。
2021年3月、国が22年ぶりに方針を大きく転換した。これによってNIPTがより一般化するが、そこには「命の選別」が広がることへの倫理的懸念がある。
私は重度脳性麻痺者で、親に「お前さえ生まれてこなければ」と言われ続けて育った。私のような障害者にとって「命の選別」は、レトリックや思考実験などではなく厳然たるリアルだ。それは絶えず存在を蝕み続ける自己否定の感覚と直結したテーマである。
今回は『ルポ「命の選別」 誰が弱者を切り捨てるのか?』(文藝春秋)の共著者で長年NIPTを取材してきた千葉紀和氏にお話を伺った。
◆ ◆ ◆
「無認定施設」の横行、ネットの誤情報などが背景に
国の方針転換による変更点は主に2つ。
1つ目が国の関与と、要件の緩和だ。
これまで日本医学会が実施を認定する施設は実質的に大病院だった。今回それらの条件を撤廃し産婦人科クリニックも正式にNIPTを実施できるようにすると共に、その主体となる新委員会に国も関わる。
これまで認定施設で検査を受けられるのは「高年齢(概ね35歳以上)の妊婦」「過去に染色体に変異のある子供を妊娠した人」「超音波検査で変異の可能性が示された妊婦」等に限定されてきたが、年齢制限の撤廃も新委員会で議論されるとみられる。
千葉氏は「国としてNIPTにお墨付きを与えて拡大する方向に舵を切った。パイが広がり一般化する」とみる。
2つ目が情報提供の方針だ。
国は出生前診断について「積極的に情報を知らせる必要はない」との見解を22年前に示していたが、今後はHPや自治体を通じて情報提供する。
背景には出産の高年齢化や仕事と子育ての両立などへの不安、相談・支援の情報の乏しさがある。ネットからNIPTを知る人が増える一方で誤情報も多く流通する。「無認定施設」で検査を受ける人が51%まで増加したという調査もある(2020年10月 日本産科婦人科学会(日産婦)調べ)。
妊婦が混乱するケースが表面化した事や「知る権利」への意識の高まりなどもあり、正確な情報を提供する体制が必要と判断し、国が方針転換に乗り出したのだ。
無認定施設の過半数が、産婦人科ではなく「美容外科」
無認定施設ではNIPTをどう実施しているのか。前掲書によれば、無認定施設の9割超は産婦人科以外の診療科で、特に個別待合室を完備するなど他の患者と顔を合わせなくても済むよう工夫を凝らす美容外科が過半数を占めていた。