これは、検査したことを知られたくない人も多いためとされる。採血して検査企業に送るだけで専門的な技術や経験は不要だが一件で5万~10万円の利益があるという。
千葉氏は無認定施設によるNIPTを「不安ビジネス」と呼ぶ。
理由の一つは、十分に説明せず不安を煽り高額オプションに誘導している施設が多いからだ。
認定施設で検査できるのは3疾患のみであるのに対し、数万円を余分に払えば全染色体を検査できるオプションをつけている無認定施設は少なくない。検査の行程・労力・コストはどちらも同じだが、妊婦に伝える内容により価格差を付けている。問題は、高いオプション料を取りながら、3疾患以外の疾患に対する検査精度はそれほど高くないことだ。
検査後も問題だ。多くは結果を非対面で通知するだけ。認定施設では、陽性の結果が出た場合は羊水検査などへと進むが、そうした案内もない。そのため、羊水検査などで結果を確定することなく中絶するケースもあるとみられる。
年間2~3人しかダウン症児が生まれない、アイスランドの例
NIPTに認定制度があるそもそもの理由は「命の選別」に繋がる懸念があるからだ。
染色体異常が推定された妊婦の約8割が中絶するとのデータもある。こうしたデータを「自己決定の結果だから仕方がない」と一蹴する意見もあるが、千葉氏はこう反論する。
千葉 子供を持つかどうかの選択と子供の質を選ぶ事は違う。日本では障害者団体と、中絶の権利を訴えた女性団体が議論を積み上げ「女性の自己決定権は当然尊重されるべきだが、後者はそこに含まれない」という見解で一致した歴史があります。
他方で「大変な思いをして育てるのは親。なぜ他人が口を挟むのか」という意見も根強い。
千葉 確かに子供に「共働きだから特別なケアはできない」「生活を乱されたくない」「五体満足で生まれて欲しい」と考えるのも人情でしょう。
しかし個人の決定が集まれば社会の決定になる。これを、新優生学とも言います。また、こうした検査が広がれば、障害児を産む事が自己責任とみなされる懸念もあります。
「病気を撲滅する事」と「社会にこの病気の人がいてはいけない」という思想は紙一重。ひとつの命を中絶するかどうかを超えて、「ダウン症のある人」などといったカテゴリー全体の抹消につながりかねないんです。
具体的には全妊婦へ出生前診断の情報を提供してきたアイスランドの例がある。小国アイスランドでは80~85%の妊婦がNIPTを受け、陽性が判明するとほぼ100%中絶を選ぶ。その結果、出生するダウン症児は年に2~3人だ。
また、日本では高額な費用への不満から「国は出生率を向上させたいなら、NIPTを保険適用し無料で妊婦健診に組み入れるなどして積極的に普及すべき」という声もある。
千葉 母体保護法との兼ね合いのため、すぐに国が保険適用することはないと思います。しかし、公平性や「安心な出産を」といった理由で各地の自治体の首長がよかれと思い、公費助成する、そこからなし崩し的にNIPTを受けるのが当然になるーー。その可能性は十分あります。