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【方針転換22年ぶり】人が「子供が欲しい」と言う時の本心は…新型出生前診断が突きつける“難問”の正体

2021/04/09
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 これまで検査の前後に2回受ける必要があった遺伝カウンセリングについても「自分で勉強しているから不要」「受けたくない」という意見が多いが、具体的にはどんなものなのか。

千葉 臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが色々と質問して、受検者が答えるというやり取りを、個別に一回約1時間行います。結果も対面で説明する事が前提です。それらを通して一回立ち止まって考えてもらう趣旨です。

 

 情報だけならネットにあるかもしれません。ですが中立的な専門家を交えて当事者が集まり一緒にじっくり考え、語り合う。そうした対話を経た選択を担保する仕組みがあればこそ「優生的ではない」とされてきた。

 

 これは建前だけど重要です。その過程抜きに調べるのは「自己決定」と言えるのでしょうか。

 今後は、事前のカウンセリングは不要になり、陽性判明後にカウンセリングを受ける仕組みとなる。

方針転換は「無認定施設に対する有効打にはならない」

 情報提供体制については「どんな場合に出生前検査に関するリーフレットを配布するのか」等も含め、まだ不透明な部分も多い。

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千葉 国が関わる以上「推奨している」という受け止めは必ず生じます。実態調査と情報公開を徹底し透明性を高め、各種統計から「選別のための検査になってないのか」を検証する必要があります。

 無認定施設対策も依然課題だ。法規制を求める意見もあるが、厚労省の専門委員会が3月末にまとめた案に具体策は盛り込まれなかった。

千葉 新制度は無認定施設の横行に対する有効打にはならないでしょう。NIPTを受けたい人にとっては、プライバシーに配慮していたり、全染色体の検査を提供したりしている無認定施設の“メリット”は依然として大きい。むしろ、そちらに引っ張られる形で「認定施設でも3疾患以外を調べたらどうか」という声が高まる可能性もあります。

 障害者の議論への参画も懸案だ。日産婦や国の委員会では検討過程から排除されてきた。後者には日本ダウン症協会も入っていない。新委員会の構成には「患者団体など」とあるが、詳細はなお不透明だ。

 障害者権利条約には「私たちの事を私たち(当事者)抜きで決めないで」という言葉がある。千葉氏はNIPTに関しての「私たち」には今を生きる障害者も当然に含まれると言う。障害者はこの問題を通して「社会が障害をどう捉えるのか」という議論から多大な影響を受けると同時に、そこに経験してきた知見を提供できる存在だからだ。

 家族や福祉関係者のみならず、障害者本人も委員として意思決定に携われる新委員会となることを強く求めたい。