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2021/06/14

source : ノンフィクション出版

genre : ライフ, ライフスタイル, 社会, 国際, 読書

コロナが怖くても守りたいもの

 昨年のたしか感染拡大の第二波が収まりかけた頃、近所の焼き鳥屋さんへ晩ごはんを食べにいきました。

 入店してすぐに「食事中以外はマスクしないといけないんだよね」と確認すると、顔なじみの店員さんは「はぁ、そんなルールになってるんやね」とまるで初めて聞いたという顔でした。

 店員さんはもちろん「マスク会食」を知っていたはずです。でも、そこで「はい、お願いします」と応えたら、お店側がそのマナーを求めた格好になってしまう。とぼけてみせることで、「世間はコロナで変化してるけど、私たちの接客はこれまで通りですよ」とやんわりアピールしたのです。

 もしお店が接客態度を変えると、これまでお客さんとの間に築いてきた信頼関係が怪しくなってきます。

 お店は、馴染客はみんな家族のように接するから、「一見さんお断り」というルールができるのです。お客のほうも身内意識があるから、「時短営業で困ってそうだから食べにいってあげないと」と出かけていく。そういう信頼関係で成り立っているから、それが崩れることをものすごく嫌がります。

 こうした信頼関係は、お店にかぎったものではありません。

 緊急事態宣言によって外での会食が減り、解除されてもその習慣を失いかけていた頃です。知り合いから「うちで晩ごはんでもどうですか」とお誘いがありました。

 大学の帰りにご自宅へうかがうと、玄関を入ったところで私は一瞬とまどいました。相手の方はマスクをつけていないのです。

 むこうもすぐに気づいて「うちではマスクせんでもええよ、大丈夫やから」と言われました。

 ご家族には高齢の方がいますし、一緒に食卓を囲むかもしれない。こっちは大学で学生や教職員と接したあとだから、万が一のことを考えてしまいます。「なんで大丈夫なんやろ」と首をかしげつつも、私だけマスク着用はおかしいと思って、言われたとおりにいったんはずしました。ただ、こちらの考えで食事以外のときは着用を意識しました。私のそのやり方に、相手の方は特にいちゃもんをつけません。