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「いかがわしくて、子どもをつれて歩けない!」世界最大の新興日本人街での“ヤバい暮らし”

『バンコクドリーム 「Gダイアリー」編集部青春記』より #2

2021/06/18
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日本人相手の店が増殖

「すごい店増えたよね。前に来た時よりも居酒屋もスナックもかなり多くなってる」

 夜の街にレンズを向けながらシマくんが言う。どれもこれも、日本人相手の店なのだ。バンコクではない。タイの小さな地方都市の一角が、完全に日本人向け風俗街へとバケているのである。

「イラッサイマセー!」

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「アナター!」

日系企業が集まると夜のお店も増殖してしまう。もはや自然現象とさえいえる ©室橋裕和

 恥ずかしい声が飛ぶ。ミニスカの姉ちゃんが行く手を遮り、腕を絡めてくる。「イッパイダケ」「サミシイ、コイシイ」。よくもまあ、そんな日本語覚えるよと思いつつも、しがみつかれればおじさんは嬉しい。つい路上で両手の花を抱き寄せてしまう。そこをシマくんがバッシバシ撮影する。こんなみっともない写真だが、載せればきっと誌面を楽しく彩るだろう。

 なんとか女どもを振り払って歩き出すと、またスナック嬢とエンカウントする。「チョットダケー」。キリがないんである。

 どの店も間取りは小さく、在籍しているギャルもせいぜい4、5人だろうか。スナック、カラオケとあるがその垣根はよくわからず、どこも歌って飲んで騒いでセクハラに励み、気に入った子がいればお持ち帰りというスタイルだ。小規模だがそんな店が、もはやタニヤを上回る数あるのではないだろうか。しかもどんどん増殖しているのだ。

タイ最大の深海輸出港で働く日本人

 シーラチャーは2005年頃から異常なスピードで発展を続けている街だ。円高や、安い人件費を求めて日系製造業の進出が激しく、日本人もどんどん増えている。この国を象徴するような街かもしれない。

 その理由はシーラチャーのすぐ南にあった。タイ最大の深海輸出港レムチャバンである。この周辺に立ち並ぶ巨大工業団地に、日系企業が続々と拠点を構えるようになったのだ。やはりタイ最大のアマタナコン工業団地をはじめ、アマタシティ、ピントン、ロジャナ、イースタンシーボード……四輪二輪関連の諸業種に加えて、電機、精密機械、化学、繊維、食品加工などなど、実に多彩な日本の企業群が、タイ東南部に押し寄せたのだ。

おでんの屋台と象とが同居しているのがシーラチャーなのである ©室橋裕和

 で、そこで働く日本人はどこに住むのか。各工業団地からバンコクまでは、高速道路を使っても2、3時間と、通勤圏内にするにはキツい。チョンブリー県には「世界で最も下品なビーチ」パタヤがあるが、さすがに自社の社員を住まわせるのには大いに問題がある。そこで、そのパタヤとレムチャバンのやや北にあるシーラチャーに白羽の矢が立ったのだ。

 かくしてチョンブリーののどかな田舎町だったシーラチャーには、突如としてタワマンがニョキニョキと乱立する異常事態となった。これらの住民のほぼすべてが日本人なのである。あれよあれよという間にタワマンは増えていき、日本のレストランや居酒屋や食材店や日本人学校などが整備され、漫画喫茶やスーパー銭湯や学習塾や習いごと教室やゴルフ用品店までもがシノギをけずるようになる。すべて日本人相手なのである。