文春オンライン

「いかがわしくて、子どもをつれて歩けない!」世界最大の新興日本人街での“ヤバい暮らし”

『バンコクドリーム 「Gダイアリー」編集部青春記』より #2

2021/06/18
note

看板娘を取り合ってお偉いさんが乱闘騒ぎ

「で、M社のおじさんはどうしたの?」

「そうそう、M社もクルマでしょ。その店にはね、やっぱクルマ関係で、S社の人も常連だったんだって。でね、S社のエラいおじさんも、人気の看板娘目当てだったの」

「両社のおじさんで、同じ女の子を取り合いか」

ADVERTISEMENT

「そう。で、そのコがすっごい悪いコだったんだって」

 もう女性週刊誌に食い入るおばさんの顔であった。タイ人もこういう話が大好きなのだ。ちょっと突つけばペラペラペラペラ止まらない。

「S社のおじさんの前で、M社のおじさんといちゃついてみたり、かと思ったらM社のおじさんが見てるのに、S社のおじさんにお持ち帰りされたり」

 競争心を煽ったのだろうか。気が気でない両社がひんぱんに来店してくれる効果を狙ったのかもしれないが、コトは剣呑な方向に流れていくのであった。両社のおじさん同士、いがみあうようになったのだ。当然といえば当然であった。

 そしてある日、とうとう日本を代表する自動車産業の両雄は、互いにブチ切れてその店で乱闘騒ぎを起こしたのだという。

「コワイネー」

 プラーちゃんは日本語で言って、くっくっくと嬉しそうに笑う。そして、いい年こいて大立ち回りを演じたおじさんたちの処遇を決めるため、それぞれの支店長が出張ってきたのだという。この騒動に対する裁断は、

「M社は偶数日、S社は奇数日。店に行く日を分けて、ケンカはしないように」

 こうしてトップ会談によって和平協定が結ばれ、両社の頭文字から取った「シーラチャーSM戦争」は終結したのだという。この顛末が実に面白くて、Gダイだけでなく僕はあちこちの媒体に書きまくってしまった。

写真はイメージ ©️iStock.com

 シーラチャーの日本人人口は、いまや7000人とも、短期長期の出張者も含めれば1万人ともいわれる。早すぎる発展の裏にはきっと、まだまだたくさんドラマが隠れているのだろう。

【前編を読む】「それ、虐待じゃないですか」日本人女子高生の売春が噂になった“テーメーカフェ”で聞いた在タイ邦人のリアルな日常

バンコクドリーム 「Gダイアリー」編集部青春記

室橋裕和

イースト・プレス

2019年12月17日 発売

「いかがわしくて、子どもをつれて歩けない!」世界最大の新興日本人街での“ヤバい暮らし”

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー