日本人客の奪い合いでショットガン騒動が……
となれば当然、激務に疲れた企業戦士を癒すためのエッチな施設も出現する。需要か供給かどちらが先だったかはわからないが、スナック・カラオケ・マッサージが爆発的に増え、Gダイとしてはもはや放置しておくわけにもいかないので、もちろん最強マップを制作し、ときどきパトロールに来ていたのである。
「あっ、これかな。問題の店」
「やばい事件があったとは思えないね。静かだ。普通の居酒屋に見えるけど」
急激に発展する日本人社会は当然、さまざまな軋轢を伴いつつ膨張してきた。日本人客の奪い合いによる対立も起きる。とある居酒屋同士はなにが発端かはわからないが諍いを起こし、片方の店がタイ人のマフィアだかチンピラだかを雇って、ケンカ相手の店にショットガンをブチ込んだのだそうだ。ヒットマンの腕が良かったのか悪かったのか、幸い負傷者は出なかったと聞くが、玄関先に散弾をバラまかれたほうの店は平然と営業してるのであった。事件を知っているのかどうか、お客も入っている。チョンブリーは巨大港湾を擁する地が世界のどこもそうであるようにマフィアの力が強く、さらにアジア最大級の赤線地帯パタヤを抱えていることもあって、なかなか荒っぽい県なのだ。サッカーのチョンブリーFCサポーターもガラが悪いことで有名らしい。
子どもには見せたくない光景
シーラチャーのさらなる問題は、子どもの教育であった。当初は単身赴任の駐在員だけの街だったのだが、嫁子どもを同伴して腰を据えてタイで暮らすパパが急増したのだ。だから日本人学校も建設されたわけだが、問題は学校教育のことではなかった。
「街のどこもかしこもいかがわしくて、子どもをつれて歩けない!」
と奥さまたちが悲鳴を上げたのだ。クレームはもっともであった。家族で食事をしようと中心部のナコン6通りに行けば、ショーパン・ミニスカのギャルたちがカタコトの日本語で下品にお客を呼びまわってるのである。それならと街一番のショッピングモール「ロビンソン」に行けば、カラオケ嬢と日本人のお父さんが腕を組んで歩いている。タイスキチェーンMKに入っても、夜の臭いを振りまいたお姉ちゃんと鼻の下を伸ばした日本男児のカップルに出くわすわけで、子どもには見せたくない光景ばかりが視界に飛びこんでくるのだ。
ため息をついてタワマンに帰れば、家族連れと買春カップルとが同じエレベーターに乗り合わせてしまうという不幸もたびたび発生するに及び、ママさんたちは立ち上がった。単身赴任あるいは独身で自由を謳歌し、たびたび自宅にギャルを連れ込む日本男児の玄関ドアに、
「夜のお店の女性をマンション内に立ち入らせることはご遠慮ください。子どもの教育への配慮をお願いします」とかなんとか、ばっちり日本語で貼り紙したのだという。なにも犯罪を犯しているわけでもないのに、自らの性癖を監視され非難された氏の屈辱はいかばかりであったろう。だがここは性急すぎる発展に、システムが追いつかない街シーラチャー。生き方の違う者同士でも互いに妥協して共存しなくてはならないのだ。