せめてものウサ晴らし
とあるタワマンでは自治会によって、2台のエレベーターの使用者がわけられたというウワサも聞いた。ファミリー専用と、一人暮らし専用である。もちろん、おひとりさまサイドは香水の匂いが染みつくほどに、夜の天使同伴のGダイ読者が乗り込んでいたことだろう。そんな汚らわしいエレベーターをママさんたちは「エンジェルリフト」と侮蔑もあらわに呼ぶのだという。
それほどまでに、製造業の最前線で働く工場マンたちはお盛んのようなのだ。タニヤやスクンビットのカラオケ屋がどこも不景気でお客が少ない、来てもみんなセット料金1時間で帰っちゃうと嘆いているのに、シーラチャーはどこもそこそこ賑わっており、がなり立てるようなカラオケのシャウトが響く。まるでストレスを叩きつけるかのようだった。僕たち現地採用は好きでタイにやってきて勝手にこっちで就職したわけだが、駐在の皆さまは社命で赴任しているのだ。本意ではない人もいるだろう。東南アジアのテキトーさが性に合わない人だっている。彼らはタイ語もほとんどわからないのだ。しぜん、こういう店に入り浸り、カタコトの日本語がわかるギャル相手にクダを巻き、ネンゴロになる。単身だったら、そりゃあ自宅に連れ込む人も出る。望まぬ異国暮らしの、せめてものウサ晴らしなのかもしれない。
現役JDのプラーちゃん
「でねでね、M社のエラい人っていうのが、そのスナックのいちばん人気のコに惚れちゃったんだって」
聞いてもいないのに下世話な話を耳元で囁いてくるプラーちゃんは、現役JDであった。シーラチャーの北に位置するバンセンの街にあるブラパー大学2年生は、太モモあらわなミニスカでぴったりくっついてくる。シーラチャーは近辺の大学や専門学校の女の子がナイショのバイトをする街としてもひそかに知られていた。シマくんはそんな若い子たちを無視して熟女のママの手を取り、なにやら語り合っている。夕方からシーラチャーを重点的にパトロールして回ったが、最後のシメと思って入ったスナックだった。客は僕たちのほか、猛り狂ったようにオザキとナガブチを熱唱する作業着姿のたぶん30代。
「あのヒトたちも自動車関係。おじさんは?」
「僕らはまあ、そのなんだ。ナンスー・サラカディ(ガイドブック)」
Gスタの常套手段であった。取材とバレたくない場合、よくこう擬装した。ガイドブック制作会社を称すれば、根掘り葉掘りあれこれ聞くのも写真をバッシバシ撮るのも自然である。それにGダイはガイドの一面も持っているのだから決してウソではない。
「へえ、いろんなトコ行けていいなあ。私もつれてってー」
とか信じているので若くみずみずしい太ももを撫でてやれば、小さな頭をちょこんと肩に乗せてくる。かわゆい。