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 タイ国家警察は8月下旬から9月上旬にかけ、2人の男を相次いで逮捕した。うち1人を実行犯と断定したが、逮捕状を取った残りの容疑者15人については行方も分からないまま、10月半ばに捜査の打ち切りを宣言した。国際的なイメージ下落を防ぐことがその目的とみられているが、あまりにも尚早な幕引きに国内外からの反発は必至であった。

 私が関根のアパートを再訪したのは、バンコクがまだ爆破テロの余波に揺れている渦中のことだった。

「もういい加減にして下さい!」と取材拒否

 最寄りのMRTの駅を出ると、夕暮れ前の空から雨が降りしきっていた。

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 パッタイ(タイ風焼きそば)や唐揚げ、フルーツなどを販売する屋台が並ぶ歩道を歩き、そこからタクシーに乗った。数分程走ると、見覚えのあるベージュ色のアパートが左手に現れる。この辺りは閑静な住宅街だ。

写真はイメージです ©iStock.com

 菊地(編集部注:タイに渡り、現地でコールセンター勤務を経て会社を設立した男性)の経営するレンタカー会社の事務所はすでに閉店時間を過ぎ、窓ガラスのカーテンも閉じられていた。カードキーがないとアパートの中には入れないので、私は他の住人が来るのを待ってさりげなく後ろに付いて入った。4階に到着し、左手に伸びる廊下を歩く。手前の部屋のドアは半開きになっており、中は電気がついていなかったため薄暗く、若いタイ人2人が特に何をするでもなく、静かに座っていた。

 その隣のドアをノックすると、間もなく黄緑色の無地のTシャツを着た関根がぬっと顔を出した。私を見るなり、一瞬、驚いたような表情をした。

「以前お会いした水谷です。マニラから電話をかけてもつながらなかったので」

 と話し出したところで、関根が明らかに嫌悪感を示しているのが分かった。

「一昨日バンコクに来たのですが、あらためてお会いできるお時間はありませんか?」 

「忙しいので、ちょっと今は難しいですね」

「色々とお話ししたいことがありまして」

「もういい加減にして下さい!」

 関根はそう言い放ち、ドアをピシャリと閉めた。部屋の中は、相変わらず物が散らかっているようだ。前回会った時より、心なしか痩せているように感じられた。

 これ以上押し入るわけにもいかない。アパートを出ると、まだぽつりぽつりと雨が降っていた。彼が取材を拒否するのには理由がある。取材を受けたと例の友人にあれこれ話したところ、激怒されたのだという。それで関係がこじれたので、もう取材されたくないとのことだった。