「私自身が東レ出身なので、アパレル業界が価格交渉に厳しいことは理解していました。雑巾を絞れるだけ絞って、カラカラに干上がっているのにさらに絞り込んでくる世界です。ファーストリテイリングも例にもれず、コンペティターの値段を見せて、『これ以下でないと通せない』の一点張り。結局こちらは泣くだけ泣いて、最後にはほとんど利益が出ないような金額で決着することが多いんです」(鈴木氏、以下同)
それでもアスタリスクにとって、企業規模の大きいファーストリテイリングとの取引が魅力であることは事実。大きな取引のチャンスを狙っていたところに、セルフレジのコンペの情報が舞い込む。
じつはそれ以前から、アスタリスクは新しいタイプのセルフレジの開発に取り組んでいた。
ファーストリテイリングのコンペに
既存のセルフレジは、購入しようとする商品を読み取り装置と呼ばれる箱型のスペースに入れて、蓋をして計測する仕組みだった。蓋をしないと周囲にいる別の客が持っている商品のタグの情報を読み取ってしまう危険性があり、それを防ぐためには仕方のないこと、とされていたのだが、鈴木氏はそこに改善の余地を感じていた。
「蓋を閉めることなく計算ができれば、セルフレジの利便性とともに独自性が出せると思っていたんです。それで電波の吸収材や反射材について徹底的に研究をして、蓋のないセルフレジを開発。特許出願をした上で2017年5月に開催されたJapan IT Weekでお披露目しました」
それから1年以上が過ぎた18年の夏、ファーストリテイリングで新型セルフレジのコンペがあるという情報が鈴木氏の耳に入る。鈴木氏らは自信をもって「蓋のないセルフレジ」をファーストリテイリングに見せると、先方のIT担当者の感触は良かったという。もちろんこの時、この技術が特許出願中であることもファーストリテイリング側には伝えている。
「コンペに参加したのはウチを入れて3社と聞いています。ファーストリテイリングさんの話を聞く限り、ウチの技術はその要望を叶えている。採用される自信はありました」