偉業をサラッと決めた。荻野貴司外野手が球団新記録となる新人から12年連続の二桁盗塁を記録した。5回二死一、三塁だった。ホークス甲斐拓也捕手自慢の強肩をかいくぐって二塁を陥れた。今シーズン10個目の盗塁。この瞬間、プロ1年目から12年連続で二桁盗塁を記録したことになった。プロ野球では吉田(阪神)、張本(日本ハム)、大石(近鉄)に次いで25年ぶり4人目。ロッテでは新人から11年連続で弘田澄男が記録をしていたが、これを抜いて球団新記録となった。
「嬉しいですけど、そこを目標にやってきたわけではないのでね。一年一年必死にやってきた結果。先のことはみないでいつも目の前の事をやっているので、積み重ねた結果としてこういう記録になったのは嬉しいですけど、特別な想いはありません」
記録達成も荻野は特に表情を変えることなく、いたって冷静に振り返った。球団新記録を達成しても驕ることもなく特に喜ぶこともなく淡々といつもの謙虚な姿勢を崩すことはなかった。それがまたこの男の魅力であり、持ち味だろう。
夫人が語る背番号「0」の素顔
ナイター後、自宅に戻ってもその姿は同じだったようだ。結婚8年目となった夫人は、玄関で迎えると短く「おめでとう」とねぎらいの言葉をかけた。「ああ、ありがとう」。返事は予想通り。いつもと変わらない感じで、かすかに笑みだけを見せた。
「好不調に関わらず、家ではいつもメンタルの状態が一定で無駄な感情の起伏はないですねえ」と夫人は背番号「0」の素顔を語ってくれた。普段のロッカーでの姿と一緒だ。
荻野は記録達成後、「先のことはみないでいつも目の前の事をやっている」と口にした。未来のために体への投資は怠らない。身体によいと評判のトレーニングがあれば試し、様々なケアや治療を繰り返す。継続的に時間をかけて根気強く丹念に続ける。生活はいつも身体最優先。「休みの日もトレーニングとか治療とかの時間ばかりで家族には申し訳ないことをしている」と荻野は苦笑いするほど。ただ家族はそんなパパの姿に敬意を表し理解し後押ししている。
「治療、トレーニングの日々で試合後もトレーニングや治療をしていつも遅く帰ってきます。毎日毎日、一年中、身体はキツイところがあるみたいですが、試合中はアドレナリンが出ていて、そういうのはまったくなくなるそうです。プロだなあと思います」と夫人。そして記録に無頓着な男の自宅には一切の記念品は飾られてないという。
「今や未来に向けてケアやトレーニングはしていますけど、過去の記念ものとかはまったく執着がなく、よくあるプロ初の記念のボールとか、記念のものとか節目のものとかは一切、家にありません。今と未来にしか生きていない感じがします」と言って夫人は笑う。
そんなメンタルの状態がいつも一定で無駄な感情の起伏を出さず、メモリアルなことに無頓着で過去ではなく今と向き合う男の至福の時は4歳の息子との時間だ。
「家に帰ったらひたすら息子と遊んで戯れあってベッタベッタに過ごして一緒に寝ていますね。息子もそれが楽しみでナイター終わりでも必死に目をこすってパパの帰りを待っていたりします」(夫人)
家族の存在があって、家族の理解と支えがあって、家族のために荻野は走り続けているのだ。