元阪神・林威助が語る陽岱鋼の「冷凍」
ジャイアンツの台湾選手でいえば、かつて呂明賜(1988~1991年在籍)の起用法やフォーム改造に対して記者が憤慨、球団を批判するケースも見られた。だが、現在の台湾メディアでこうした記事は見られない。逆に、辛辣な内容の日本の記事を紹介したとしても、そこからさらに選手を批判することもない。陽が結果を出した際には、日本のネットユーザーの「1軍へ昇格させよう」という声も紹介される。
スーパースターであるがゆえ、過去にはグラウンド外のプライベートな問題をあれこれ報じるゴシップメディアもあった。だが、スポーツメディアは基本、陽の復活を応援するスタンスだ。
5月半ば、『アップルデイリー』は陽と同じく高校から日本に留学し、人気球団である阪神タイガースでプレーした台湾プロ野球・中信兄弟の林威助監督を取材した。この時期、台湾では日本メディアの報道をもとに、陽と首脳陣との関係が冷え込み、「冷凍(ここでは幽閉、干されている、の意)」されていると伝えられていた。しかし、林威助は自身の経験をもとに、「陽はドラフトを経て入団しており、外国人扱いの選手でもない。何よりも重要なのは結果を出すことだ。プロ野球において、活躍しても使わない首脳陣がどこにいるものか」と激励した。
台湾の野球ファン、特にネット掲示板では、今年の成績ではチャンスが与えられなくてもやむを得ない、という見方をするファンもいる。その一方で、「冷凍」への批判や嘆きの声が目立つ。冒頭の大谷と張の談笑シーンが話題になった際も、この時点では陽が実戦から遠ざかっている理由がはっきりしていなかったこともあり、掲示板ではこうした声が大半を占めた。
もっとも、陽の復活を純粋に願うファンも少なくない。陽は5月23日、およそ2カ月半ぶりにフェイスブックを更新した。前月の試合中に怪我をしたこと、すでにリハビリは終盤に入り、この数日間、練習量を増やしていることをファンに報告。近日中の実戦復帰を匂わせた。すると、1万5000人近いファンが「いいね」、「がんばれ」などを押した。また、コメントも450件近く寄せられた。
「岱鋼加油(がんばれ)! 台湾のファンは永遠にあなたの後ろ盾だ」
「1軍昇格を期待しているよ」
「成績に関わらず、ずっと応援しています」
「また日本に行って応援できる日を楽しみにしている」
とにかく本人を励ましたいという気持ちが伝わってくるコメントがいくつもあった。また、背番号2のユニフォームや、応援歌の歌詞の一部「魅せる男」と書かれた応援ボードの写真をアップロードするファンもいた。陽もこうした励ましに、きっと勇気づけられたことだろう。私は、ストレートに選手へ「愛」を伝える、こうした台湾のファンが好きだ。
2軍復帰から1カ月経った。打率は.203(6月29日現在)と低迷しているが、23日には好守備に加え、コンパクトなスイングでライトスタンドへ運ぶ4号ホームランを放った。苦しい道のりかもしれないが、林威助のアドバイス通り、とにかく自ら切り開いていくしかない。
34歳、老け込むにはまだ早い。何より、陽岱鋼は華やかな舞台が似合う男だ。ファンの声援を力にアピールを続け、再び1軍で躍動する姿をみせてほしい。
陽岱鋼、加油! sa'icelen!(アミ語で『頑張れ』の意)
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