【文春野球巨人監督・菊地選手から推薦コメント】
台湾の野球ファンは、巨人で「飼い殺し」とも言える状況が続く陽岱鋼についてどんな感情を抱いているのか――。そんな原稿を書いてもらいたくて、台湾在住ライターの駒田英さんに行き着きました。
駒田さんは台湾野球にのめり込み、2006年に渡台。政府系国際放送局で日本語放送のパーソナリティーを務めるなど、台湾野球に詳しい人物として知られます。今回は日本メディアではなかなかお目にかかれない、貴重な原稿を寄稿してくれました。
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陽岱鋼の報道はほぼ全て中国語に翻訳され、台湾で伝えられている
5月19日に行われたエンゼルス対インディアンスの4回裏。中継画面にセンター前ヒットで出塁した大谷翔平と、インディアンスの一塁手、台湾出身の張育成が談笑しているシーンが映し出された。
大谷:陽岱鋼さん、知ってる?
張:知ってるよ。「先輩」だよ。
張育成と陽岱鋼は出身校こそ異なるが、共に台湾東部の台東県の生まれ。台湾原住民族の一つ、アミ族にルーツがある。台湾では、トップクラスの野球選手の実に40~50%が、人口比では2.3%に過ぎない原住民族と言われている。その主体となっているのはアミ族の選手で、中でも「台東陽家」は数々の名選手を輩出し、一族でオールスターチームがつくれそうなほどの「名門」である。
そんな「台東陽家」の出世頭、陽岱鋼が苦しんでいる。昨季はレギュラーに定着した2010年以降では最少となる38試合の出場に留まり、今季は開幕からファーム暮らし。一時は3軍へ降格した。5月末に2軍に復帰、6月初旬には2試合で3本のホームランを放ったり、軽快な外野守備を見せたりとアピールはしているものの、好不調の波もあって1軍昇格のチャンスをつかめていない。
ご存知の通り、陽岱鋼は台湾の国民的ヒーローである。高校から日本に留学したこともあり、北海道日本ハムファイターズ入団時点では、台湾での知名度はそこまで高くはなかった。数年間はプロの壁に直面していたが、2009年のオフに陽仲壽から陽岱鋼に改名、外野手へ転向するとブレイク。レギュラーをつかみ、台湾での人気もうなぎのぼりとなった。
そして、人々が熱狂した2013年のWBCでの活躍は、陽を国民的スターへと押し上げた。パ・リーグの実況中継がスタート、日本への応援ツアーも開催されるようになった。華のあるプレー、端正なルックスはもちろん、夫人、子どもたちを愛する良きパパでもある陽は、複数のテレビCMにも起用された。
そして、2016年のオフ、読売ジャイアンツへFA移籍。条件面が大きな決め手となったことは間違いないだろうが、子どもたちの進学や、台湾ファンの観戦のしやすさも考慮したといわれる。しかし、ジャイアンツ移籍後は怪我にも泣き、G党が期待していたパフォーマンスを発揮できているとは言い難い。そして、5年契約最終年の今季はさらに苦しいシーズンとなっている。台湾のメディアやファンは、苦境に立つ陽をどう見ているのだろうか。
台湾のスポーツメディアは日本でプレーする台湾選手について、成績だけでなく、しばしば日本メディアの記事を紹介し、報道している。その範囲は、スポーツ新聞各紙のみならず、夕刊紙、週刊誌、さらには日本のネットユーザーのコメントまで及ぶ。陽岱鋼に関する日本の報道は、そのほぼ全てが中国語に翻訳され、台湾で伝えられていると言っても過言ではない。