君臨すれど統治せず
そして、彼らは権力を正当化する手段として、金主席の血を引く「白頭山血統」と呼ばれる金正恩氏を必要としている。逆に、政権を運営する知識も人脈もない金正恩氏にも、彼らが必要だ。シェーファー氏が語った権力闘争とは、「軍事か対話か」といった政策方針を巡るものというよりも、単純な利権をめぐる争いだったのではないか。そして、最高指導者を担ぐことに成功した勢力が勝利したということだろう。
12月に金正恩氏は権力継承10周年を迎える。この10年、金正恩氏が国民に誇れる成果は何もない。いくら過ちを認めるといっても、限度がある。このままいけば、正恩氏はどんどん祭り上げられ、名実ともに「君臨すれど統治せず」という存在になっていくしかないだろう。
正恩氏の健康不安も
そして、正恩氏を巡るもうひとつの不安が健康だ。正恩氏は昨年4月、一時的に姿を消した。すぐに活動を再開したが、当時、朝鮮労働党内で取り交わされる書類に最高指導者の決裁が降りないという事態も発生していた。複数の関係者は「正恩氏の健康に何らかの異常が発生した可能性が高い」と分析していた。
そして、北朝鮮は昨年8月、今年1月に党大会を開くと予告した。通常、予告期間は6カ月と決められている。慌てて党大会を開いた理由について、妹の金与正氏を補佐役として昇進させる必要があったのではないかとみられたが、与正氏は党大会で党政治局員候補から党中央委員に降格されてしまった。
だが、最近になり、上述したように、党大会で第1書記のポストを新設した事実が明らかになった。第1書記のポスト新設は、金正恩氏の身に何かあったときのための緊急避難的な措置を講じておいたという意味も持っているのだろう。そして、最近になって正恩氏の体重減が囁かれている。2010年当時に80キロだった体重は昨年段階で140キロにまで増えたが、最近になって10キロ以上やせたとみられる。これは、「第1書記」のポストを新設した際に想定した「事態」がいよいよカウントダウンを始めたという意味なのかもしれない。
金与正氏の第1書記就任の発表もなく、党中央委総会は18日に閉会した。朝鮮中央通信が伝えた総会の結果は、精神主義に彩られた従来と代り映えしない内容だった。金正恩氏と金与正氏を待ち受ける未来は決して明るくない。