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 たとえば「ルーツ・オブ・エンパシー」という“赤ん坊にエンパシーを教わる”ユニークな教育プログラムがあります。これは、教室の真ん中に緑色のブランケットを敷き、赤ん坊をそこで遊ばせて、生徒たちがブランケットのまわりに座って、言葉を喋れない赤ちゃんの行動から感情を想像してみんなで話しあうものですが、各国で取り入れられ、導入した学校ではいじめや暴力が激減しています。

「赤ちゃんは何を考えてるから泣いてるんだろうね」という問いかけに対して、「お腹が空いてるのかな?」って想像する子もいれば「あの子はきっと悲しいんじゃないかな」と考える子もいる。他者の境遇がしっかりと理解できるし、人はそれぞれ自分と違う想像をすることもわかります。

 話し合うことは赤ちゃんの気持ちに限らず、今社会で起きてることやクラスにある問題でもいい。そういう現実の課題を緑色のブランケットを囲んでみんなで語り合う。いま自分が感じてることを意識的に言葉にして話し合う訓練が、エンパシー教育の本質です。面白いことに、「ルーツ・オブ・エンパシー」プログラムの創始者も、「このプログラムは、子どもたちが囲んでいるブランケットの上で参加型民主主義を築こうとしている」と言っています。エンパシーを育てることが、民主主義を築くことだと彼女も言ってるんです。

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©️Shu Tomioka

「学校に来たくなかったら来なくていい」というスタンス

――アナキズム教育とエンパシーの親和性に関しても興味深い指摘をなさっていますね。

ブレイディ 本書ではアナキスト的なオルタナティブ教育を実践する「サマーヒル・スクール」も取り上げていますが、アナキズム教育ではまさに「みんなで話し合うこと」を非常に重視していて、校内ルールも生徒自身が作ります。先生と生徒たちが公平に1票ずつ持ってて、話し合って投票して、みながいいと思うルールづくりをしていく。トップダウンで先生が何かを決めて生徒を従わせる既存の学校教育とは違い、自治の精神で運営されています。

 そもそも「学校に来たくなかったら来なくていい」というスタンスです(笑)。本当に自由ですが、意外にも出席率は普通の公立の学校とそう変わりません。イギリスの公立校はたいした理由もなく休んだら親が罰金を払わされるほど厳しいのですが、子供の自主性に任せたフリースクールと出席率が変わらないというのは興味深い事実でしょう。