「彼が帰国したら、国軍に指を切り落とされるよ」
国際サッカー連盟は試合中、政治的な表現行為を禁止している。「日本戦に続くギリギリの試みを記録しておいて欲しい」。そんな思いを感じながら、試合直前の練習に励む彼に向け、何度もシャッターを切った。
試合終了後、会場から選手が脱出するのを警戒してか、スタジアム周辺は私服警官らが大勢待機していた。選手のバスを見下ろせる高台へ行こうとすると、会場スタッフに制止された。
22時前、バスの窓際に座ったピエリアンアウンは筆者に手を振り、ホテルに向かった。数分後、彼からメールが届いた。
「Thank you. If you have a picture, please send it.(ありがとう。もし写真があれば、送ってくれないか)」
その日の朝、「日本に残りたい?」と問いかけると、ピエリアンアウンは「Yes」と答えていた。私は、亡命中の在日ミャンマー人の知り合いが、こう語っていたのを思い出した。「彼が帰国したら、すぐさま国軍に指を切り落とされるよ」。いまやミャンマーは常識が通用する体制ではないのだろう。
ミャンマーには戻りたくない
そして帰国予定日の6月16日、ピエリアンアウンは関西国際空港で「I don't want to return to Myanmar.(ミャンマーには戻りたくないです)」と入管に保護を求め、ひとり日本に残るという決断を下した。
実はこのときに向けて、日本政府の関係者は入念な準備をしていた。支援者や関係者の証言によれば、出国審査のフロアでは2重3重の体制がとられており、審査官はスムーズに彼を別室に案内することができたという。
17日午前0時10分過ぎ、国際線到着口から出てきた彼はこう話した。
「日本戦のあと、ミャンマー国軍が自宅に来て住民票をチェックし、家族が質問を受けるということがあった。もし家族が逮捕され、拷問されるようなことがあれば、私は帰国して、家族のかわりに自分を逮捕するよう求めます」
空港でピエリアンアウンを見送ったチームメイトたちは、一体何を思っているのだろうか。私はキャプテンのマウンマウンルイン選手に連絡をとってみた。