物々しいバス車内「護送車や」「ミステリーツアーか」
持参したレジャーシートを床に敷いて子どもたちを遊ばせながらPCR検査の結果を待つこと2時間。ようやく入国審査を受け、スーツケース6個とベビーカーの荷物を受け取って到着ロビーを出る。
「一連の行程に運が悪いと7、8時間かかると聞いていたので、4時間半ほどだった私たちはラッキーでした。PCR検査の担当者が厳重な防護服を着用していたことに少し違和感を覚えたくらいで、空港を出るまでは大丈夫だったんです。ところが、その後ホテルに向かうバスに乗るや否やイラっとした。万全を期すためには仕方ないとはいえ、あからさますぎるんじゃないですか」
座席をはじめバス車内のありとあらゆるものがビニールで覆われていた上、窓のカーテンが閉ざされていたからだ。カーテンの内側もビニールが張られ、窓を開けられない状態にされていたのだという。
「外の世界と無理やり遮断? 私らバイキンやと思われてるな」
「まるで護送車や」
ユカさんと、そう話した。ちなみに2人とも関西人だ。他の乗客が、「ミステリーツアーか」とつぶやいているのが聞こえた。
「出国の72時間前と成田空港でついさっき。バスに乗るのは皆、すでに2回PCR検査をして陰性だった者ばかりなのに。ビニールの上に座るとバサバサと音がして、悲しくなりました」
外出不可、コンビニ利用不可、アルコール禁止……
北村さんたちの隔離場所となるホテルへは、成田空港から10分ほどで着いた。厚生労働省が一棟借り上げをしているホテルだ。通常のロビーとはなぜか別フロアに通され、滞在中の過ごし方について説明を受ける。
「外出はできません」
「館内のコンビニは利用できません。お部屋の中でお過ごしください」
「朝食は8時半頃、昼食は12時頃、夕食は18時頃にお弁当を配食し、部屋のドアの外の椅子の上に置きます」
などなど……。
はいはい了解です。と聞いていたところ、「滞在中、アルコールは摂取できません」とも。
思わずユカさんと目を合わせ、ため息をついた。アルコールがダメな理由は「陽性の場合、治療にさし障るから」らしい。その理屈が通るのは、体調が悪い人に対してだけではないか。やはり陽性者扱いなのだ。
腑に落ちないといえば、この項目がもっとだ。
「ご家族等からの差し入れ等の荷物は、中身の確認をさせていただきます」
「アルコールや危険物」が入っていないことを確認するためとのことだが、プライバシー侵害も甚だしい。私物をチェックするなんて、戦争中の検閲と同じじゃないか。寿司や冷凍食品の差し入れもなぜかNGだという。文句の一つも言いたいが、この若い係員に言っても虚しいだけだと口をつぐんだ。