エンコーしか知らない子どもが勝負になるわけない
胸糞悪い話で申し訳ないが、解決のための戦略としては、まず性風俗店のように、プレイを学ぶことで性器そのものの使用を軽減することがあるが、援デリも「経営効率」から考えれば、客がつかなくなった「元少女」を指導研修するよりは、新たに「現少女」を新人としてキャッチした方が合理的。
そしてもう一方の戦略としては「コミュ力・人間関係の形成でリピーターを確保する」なのだが、ここで新たに障壁となるのが、そう……冒頭に登場したような、夜職マスターのプロ援デリ嬢なのであった。
「ぶっちゃけ未成年狙いを客にしてる時点で、援デリって駄目なんだよね」
とお姉さん、ちょっと吐き捨てるように言った。どんな話でも通じる博学なお姉さんだったが、この話をしたときはちょっと雰囲気が変わったのを印象的に憶えている。
「いやね。援デリだって、大人の女相手にしてる客がほんとの客で、これは落としどころがあるんですよ。単に抜きじゃなくて、一緒に飲んで楽しいとか、さみしいときにすぐ会えるとか、どんな話でもついてくるとか、そういうのがリピ客の開拓に必要なのは、夜職でも風俗でも変わらないでしょ。だからソープ業界とかだってあたしより年上の姉さん方が現役でフツーにやってたりするわけで。あたしは最初15でピンサロから風に入ってやってきたけど、最初はマジ顎がまっすぐ閉じなくなるし、痛くてヨーグルトしか食えなくなった時だってあったけど、一杯経験して勉強して、教えてくれる客もいて、いまがあるわけ。エンコーしか知らないガキが勝負になるわけなくね?」
胸糞悪い事情なんか、想像もつかない
それはもう、誰にでもできることではないし、経験を積むしかない。10代は消耗を重ねながらも学んで生き残るしかない。そうお姉さんは言うわけだが、ここで同じ現場でこうしたプロのお姉さんたちに対峙することで、「一度は得た矜持」を打ち砕かれる援デリ少女がいるのは、もう言うまでもないだろう。
なにしろ彼女らは、自分の身体が発達して大人になったことで客がつかなかったりリピーター客がシカトしてくるようになったなんて胸糞悪い事情なんか、想像もつかない。何がいけないんだろう、どうして稼げないんだろうと思っている目の前で、自分の母親とさほど変わらないような年齢のお姉さんが、圧倒的コミュ力と知識と経験値と実技力をもって、ガンガン本数つけてリピーターを開拓していくのだ。
『アンダーズ』作中では、主人公の里奈が消耗するキャスト少女らの救済として、まずは身体消耗を回避する実技力を養成するために、経験のあるサクラに講習を依頼した。これは援デリ業者の経営効率や未成年買春客の市場ニーズ的には合理的ではないが、里奈のモデルとなった少女が実際に自腹でキャスト少女への研修を風俗嬢に依頼したエピソードは、ちょっとした業界の語り草だったと思う。
けれどそれは、あえて物語にしなければならないほどのレアケース。多くの援デリ少女らは、売春に消耗し、輝いた矜持の瞬間を失い、セックスワークの格差底辺へと落ちていく。あの日取材した現場にいた15の少女も19の少女も、ほんの半年後には行方も知れず、携帯番号も解約され、そもそもその業者自体が解散していた。
これが現実。僕が、「さりとて」セックスワーカーの一部は外部の支援と接続する道をもっと開拓すべきだと思う所以なのだ。