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『2049』を観る前に押さえておくべき旧ブレランのポイントは?

「それじゃあ『2049』を観て困らないために、押さえておくべき旧ブレランのポイントを教えてくださいよ」

「そうやな。まずは旧ブレランのファーストシーンを観て欲しい(https://www.youtube.com/watch?v=LwDdP88Dr54)」

「未来都市の景観も迫力ありますけど、なぜか挿入される瞳のドアップが印象に残りますねえ。音楽も何か不気味……」

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「この瞳は誰のものなんや、ということがファンの間でよく議論になるんやけど、映画評論家の加藤幹郎氏は、著書の中で『反乱レプリカントのリーダーであるロイ・バッティーの瞳だ』という説を唱えていて、オレもその通りやと思う。映画全体を、ロイやレイチェルら『レプリカントたちが見た光景』として捉えると、実は主役のデッカードは狂言回し的な役割に過ぎず、本質的にはレプリカントたちの運命を描いた作品であることが、よう分かるんや。『2049』を観て、この説が正しいことをさらに確信したわ」

「どうしてですか?」

「『2049』も瞳のドアップから始まるんやけど、この瞳の持ち主も『物語の本当の主役であるレプリカント』だからや。『2049』の作り手たちは、映画のさまざまな箇所で実に見事に前作の韻を踏んでいる。『前作がそうであったように、『2049』もレプリカントたちの物語を描くぞ』と冒頭から宣言しているわけや」

「なるほど、深読みっすね。さすが『ブレラン命』の人生を送ってきただけのことはありますねえ」

©getty

「まあな(ちょっと嬉しい)。ブレードランナーという映画には、いくつものバージョンがあるんやけど、リドリー・スコット監督は『実はデッカードもレプリカントだった』ということを暗示する『ファイナル・カット』バージョンを作っている。今ではこれが『決定版』とされているみたいやけど、オレ自身も含め異論を唱える人も多いんや。デッカードまでレプリカントになってしまうと『人間の命と、人間が作った命に違いはあるのか』という映画のテーマ自体が揺らいでしまうからな。ただし、『デッカードはレプリカントか』という疑問自体は、『2049』の展開にもかかわってくる重要ポイントの一つや」

「作り手である監督の意図こそが、正解じゃないんですか?」

「いやいや。映画はいったんできた後は、作り手も観客も平等や。むしろ『作り手さえ意図していなかった映画の新たな可能性』を見いだすことが、観る側の創造性というもんやろう。話を戻すと、前作でのロイたちレプリカントの寿命はわずか4年。地球に逃亡してきたのは、残り少ない自分たちの寿命を伸ばすためだった。ロイは必死に手を尽くし、自らの創造主であるタイレル社長に直接会って頼むんやけど、『それは無理。残された人生をせいぜい楽しめ』と言われ、怒りのあまり惨殺してしまう。その間に、最後に残った恋人のプリスまでデッカードに殺され、ひとりぼっちになってしまう」

「ロイにとっては絶望的な展開ですね……」

「復讐に燃えるロイは、死に瀕した自らの体を酷使してデッカードを追い詰め、とことん死の恐怖を味わわせる。だけど最後に、力尽きてビルの屋上から転落しかかったデッカードをロイはなぜか救い上げ、静かに死んでいく。それがこの場面や(https://www.youtube.com/watch?v=oWXd1wVijqw)」

「ロイの最期の言葉は次の通りや。『オレはおまえら人間が信じられないようなものを見てきた。オリオン座星域で燃える宇宙船、超空間につながるタンホイザーゲートで輝くビーム――。だけど、そうした思い出も時と共に消える。雨の中の涙のように。その時が来た』。この場面は『2049』を観る上で特に重要やから、何度も見直してから映画館に行くと、ええことがあるよ」

「哀しさと切なさと優しさが入り交じったような魅力的なシーンですね。音楽もすてき」

「音楽は特に要注目や。『Tears in Rain』と呼ばれている曲やけど、実は冒頭で流されるおどろおどろしいメインテーマ曲を発展させたものなんや。音色や調を変えているだけで、前半のメロディーはほぼ一緒やで。もう一度聴き比べてみて」

「本当だ。同じメロディーでここまで印象が変わるなんて……」

「メインテーマは劇中で、レプリカントたちの恐怖と苦しみに満ちた生を表す音楽として用いられるんやけど、最後の最後で彼らの生を温かく包み込むものに一転する。『絶望を経て安らぎへ』という物語全体の流れを、音楽自体が象徴しているわけや」

旧ブレラン・クライマックスシーンが撮影されたロスのブラッドベリービルディング。2011年晩秋に小石が訪れた際には、クリスマスの飾り付けがされていた ©小石輝

「なんで最後にロイはデッカードを助けたんでしょうね」

「それはこの映画のテーマにかかわる最も重要な問題やねんけど、劇中では明示されないままや。最初に公開されたバージョンの映画では、デッカードはモノローグで『彼は最後の瞬間に命を大切に思ったんだろう。誰の命でも。オレの命さえも』と話しているけど、これだけやと動機としてちょっと弱いと思う。何せ相手は恋人や仲間の仇なんやから、殺すのが当然やろ」

「小石さんはどう解釈しているんですか?」

「オレもずっと引っかかっていたんやけど、『2049』を観て初めて、自分なりに納得のいく答えが出たんや。デッカードが人間かレプリカントか、という最終解答もな。だけどこれについては、君が『2049』を観終わってから改めてゆっくりと話そうやないか」

「えー、気になる。じゃあ、さっそく彼氏と一緒に観に行ってきまーす!」

「何やねん! 結局オレは、デートの会話のネタだしに使われただけかい!」
 

INFORMATION

『ブレードランナー 2049』
公開:10月27日(金)全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント