「ダンケルク」は、ハリウッドでは珍しい「負け戦」を描いた映画だ。
第二次大戦中の1940年5月、欧州大陸で本格的な侵攻を開始したドイツ軍は、わずか2週間でフランス軍と大陸駐留のイギリス軍を包囲し、フランス北端のダンケルクに追い詰めた。英国本土のイギリス軍はどうやって40万もの将兵を救い出し、ドーバー海峡を越えて英国に連れ帰るのか――。
クリストファー・ノーラン監督はこの映画で、「将軍」や「作戦司令部」という俯瞰的な視点を一切排除し、あくまでも「一兵卒」や「現場にいた民間人」の視点から、「奇蹟の撤退」と呼ばれたダンケルクでの戦いを描こうとする。
その成否には後ほど触れるとして、とりあえず映画を見終わった直後の感想は……
「スピットファイア、かっちょいいー!」
「早く家に帰ってプラモデル作るぞー!」
に尽きました(笑)。
私(小石)はあえて断言する。クリストファー・ノーラン監督がこの映画を作った理由の相当部分は、「とにかく、かっこいいスピットファイアの映画を撮りたかったから」に違いない、と。
「スピットファイア」は、第二次大戦で英国空軍の主力となった1人乗りの戦闘機。「英国人にとってのスピットファイア」は、「日本人にとっての零戦」に匹敵するぐらい、先の戦争のアイコン的存在だ。現在も英国空軍には、スピットファイアなどの大戦機を現役当時のまま維持管理し、航空ショーなどの際にデモ飛行を行う専門部隊があるぐらいなのだ。(自衛隊が零戦を飛ばしているようなもの、と言ったら叱られますかね?)。
ノーラン監督は生粋のロンドンっ子。イギリス人の男の子なら、エアフィックス社(日本のタミヤに相当する模型メーカーです)製スピットファイアのプラモデルを作って大きくなるのが当たり前。しかも、ノーラン監督の祖父は第二次大戦当時、スピットファイアと共に戦った爆撃機「ランカスター」に乗り、戦死している。
映画の中でも、イギリス人の船乗りのじいさんが上空を通り過ぎるスピットファイアを見送り、「ロールスロイス製エンジンの至高の調べ」とかつぶやいて陶然とするシーンがあるが、あれは監督の本音に違いない。当然、今回の撮影も実機を使用している。