「子どものためなら無理は当然」という風潮
――もともと、介護・保育ユニオンはどのような経緯で設立した労働組合ですか?
森 2016年6月、個人参加ができる労働組合「総合サポートユニオン」の介護・保育支部として立ち上がりました。当初から相談が集まってきました。劣悪な労働条件で苦しんでいる、特に若い人が使い潰されているという声が届きました。相談件数は、今年3月31日までの集計で363件あります。このうち「保育・幼稚園・認定こども園」は43.0%に当たる156件です。現在では、1日最低1件は相談が寄せられています。
――必要性があったのに、これまでなぜ労働組合がなかったのでしょうか?
森 休憩が取れなかったり、サービス残業があるといった環境が「当たり前で仕方がないこと」「子どものためなら無理は当然」だととらえられてきた風潮があったと思います。それが変わってきたのは、2011年頃から「ブラック企業」という言葉が流行り、労働環境改善のために声を上げていいんだという雰囲気に社会が変化してきたからです。いまではユニオンの取り組みが、こうしてメディアに大きく取り上げられるようになってきています。
――どんな相談が多いのですか?
森 一番多いのは労働基準法違反(127件)です。中でも、残業代が支払われない「賃金未払い」が最も多く(114件)、また「休憩が取れない」が95件。「有給が取れない」も36件ありました。園長や主任からのパワハラもあります(49件)。労働基準法が守られていない職場は、人的に余裕がないことがほとんどで、人間関係もギスギスしています。
――認可保育園でも未払いがある?
森 実は認証や無認可よりも、認可保育園に関する相談が多いです。事業種類別で「認可保育園」は全体の44.2%にあたる69件。認可保育園ではタイムカードを導入せず、保育士の自己申告で労働時間管理をしているところが多いです。保育士が残業を申告しづらい体制にすることで、残業代を不法に削減しようとしています。
正当な賃金がつけられない背景には、国と地方自治体が支給する保育の運営費がそもそも少ないことに加え、営利企業の参入があると考えられます。
――認可外保育園の場合、どんな相談になりますか?
森 主に労働基準法違反ですが、認可外保育園のほうがひどいケースが多い。認可保育園は行政が、不十分とはいえ監査を行い、体制などに規制をかけていますが、認可外はその規制が弱いのです。事業主が蒸発するなどして、保育所が突然閉鎖し、保育士が解雇になる例もあります。公的資金が得られない認可外保育園の運営を利用者の保育料だけでやっていくのは大変です。
――相談内容には「事故・虐待」が20件あり、全体の12.9%を占めていますね。
森 配置基準ぎりぎりの人数で運営しているため、すべての子どもに目が行き届かないのです。国が定めた配置基準は、あくまでも「最低限の保育」を担保するための人数。休憩が取れるなど労働基準法が守られる職場にするには、配置基準プラスアルファの保育士が必ず必要です。余裕がなければ、子どもたちにも影響を与えます。
相談で聞くのは、ストレスが原因で起きる子ども同士の噛みつきです。転んで怪我するケースもあります。保育士の人数が少なく、園児全体を見られていないなかで起きています。噛みつきの子が園児に何人もいると、一人の保育士で見られる範囲に限界がありますから、必然的に事故が起きます。また、職員の人数が少なければ、保育士の残業や持ち帰り残業も増え、過労に陥ります。余裕がなくなってしまうと、パワハラも発生し、職場にいるだけで大変で注意力散漫になってしまうこともあります。