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現場にいればわかる、保育士が「誰でもできる仕事」ではない理由――どうする保育園 #8

現場にいればわかる、保育士が「誰でもできる仕事」ではない理由――どうする保育園 #8

「堀江さんのツイートに共感が集まっているのは、子育てをないがしろにする社会だから」

2017/10/25
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過重労働で次々と保育士が潰れていく

――一方、朝日新聞の記事にもあったように、保育士の給料はなかなか上がりません。

 保育士の手取りは15~16万円です。こんな収入で生活が続きますか? 平均で年収200万程度。時給1000円前後。普通に家族を持ち、生活することができるでしょうか? 相当、切り詰めて暮らさなければなりません。副業をしている人もいるくらいです。非常勤の場合、給料はもっと安い。しかも、1年単位の不安定雇用です。

 公立でも保育士の賃金は決して高くない。保育園の運営費は助成金です。だから、給料を上げるのは、公的資金をもっと割かなければなりません。保育に民間企業が参入したことで市場原理が働きました。他との競争で、必ずしも必要ではない保育をするようになっています。

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 例えば、英語教育や、親向けの装飾品で飾る毎月の行事など。もちろん最低限の保育の質と保育士の労働条件がキープされたうえで、これらの「付加サービス」を行うことは悪くはないでしょう。しかし、肉体的にも精神的にも過重労働に陥り、次々と保育士が潰れていく現状をしっかり認識しておく必要があります。

 そもそも、民間事業者の賃金のつけ方はどうなっているのでしょう。毎日新聞が東京都に情報公開請求してわかったことがあります。都内の認可保育園と小規模保育園の財務状況から、株式会社が運営する保育園の場合、補助金でまかなう事業活動収入に対する人件費の割合が平均で50%。40%台になっている事業所もありました。

 社会福祉法人の場合は70%程度。株式会社の保育園では、人件費よりも内部留保として蓄積されているのです。割を食うのは現場の保育士です。こうした状態を防ぐには、名古屋のように、行政が賃金に規制をかける必要があります。保育士の最低賃金ですね。

保育士は忙しい。写真は、ある保育園の指導案 ©渋井哲也

――ホリエモンのツイートには「給料上げるのに大事なのはプロ意識じゃなくて、業務の効率化」ともあります。

 子どもたちだって人間です。理屈や感情を必ずしもわかるわけでもない。子どもたちはよくわからないこともしますが、一人ひとりの人間として保育をしています。効率化が必ずしも良い保育を実現することと一致しないと思います。

――ホリエモンは「IT化も遅れている」と指摘しています。

 事務仕事をIT化することは可能です。やったらいいと思います。しかし、効率化を求める前に、保育士の状況がすでに限界を超えていることも認識しなければなりません。効率化の前にやることがたくさんあるはずです。

 政府の統計によれば保育所保育士は約38万人います、毎年約3.8万人が養成されていますが、すぐに離職してしまいます。潜在保育士(資格はあるが、働いていない保育士)は約60万人もいるんです。つまり有資格者の実に6割が潜在保育士なのです。資格をとって保育士になっても、どんどん潰されていく。結果、経験の浅い保育士が増え、事故も起きます。効率化を優先するのではなく、税金でしっかり保育がされるようにしなければいけない。安倍総理ですら、保育にお金をつける、と言い始めているわけです。堀江さんの認識は、保育の実情をまったく踏まえていません。

――最後に、読者にメッセージを。

 このまま保育士の労働条件を劣悪なままに放置すれば、日本社会の子どもたちの未来を狂わせていくことになります。自己責任で済ませていると、社会全体が壊れていきます。安全、未来を支えていく必要があります。最低限、「子どもが大人になる」ための環境を整えることが、私たち大人の使命です。それを担う保育士が苦しんでいます。もう一度、この国の保育をどうしていくのかという視点から、保育を担う保育士たちが使い潰されている実情に注目していただきたいと思います。

現場にいればわかる、保育士が「誰でもできる仕事」ではない理由――どうする保育園 #8

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