自分の居場所がサニーデイ・サービスにある
――音楽する場所が変わっているのと同様、音楽産業のかたちも大きく変わってきています。サニーデイ・サービスが今年リリースした「Popcorn Ballads」も、Apple MusicとSpotifyのストリーミング配信限定で20曲以上を収録、しかもリリースされた後に収録曲が変更になるという、日本では前例のないリリース形態でした。こうした活動も反響を呼んでいるわけですが、田中さんはどう感じていますか?
田中 何がなんだかわからない感じですよ(笑)。途中経過もどんどん変わっていくし、あれはあれで実験的な感じですね。僕にはない、曽我部の発想だなって思いますよ。やっぱり突き詰めるだけ突き詰めて、厳選した曲を収録するというのが今までの形だったので。
――今のサニーデイ・サービスというバンドは、すごく不思議な状況になっていますよね。数年前までは曽我部恵一というソロ名義があって、その一方で曽我部恵一・田中貴・丸山晴茂という3人でやっているバンド形態の活動がサニーデイ・サービスだった。しかし今は晴茂さんが体調不良で離脱していて、最新作では曽我部さんが一人で作ったヒップホップのスタイルのような、明らかにバンドサウンドでない曲も新作アルバムに収録されている。だから、今「サニーデイ・サービスとは何なのか」という定義が、あやふやになっている気がします。
田中 そうなんですよね。正直、僕としてもわからないですよ。丸山君が参加できないのはやむを得ない事情ではあるんだけど。かといってバンドを止めるわけにもいかないし、丸山君がいたらこういう音にもなってないし。今はレコーディング技術が進歩して、なんでも家でやれるようになっている。だからバンドでスタジオに入って音を合わせるということもどんどん減っている。打ち込みでリズムを作ったり、曽我部がドラムを叩いたりみたいなことも簡単にやれるようになってきた。そうするとバンド形態ではなくなってくるんですよね、自然と。だから「じゃあ、俺は何なんだ」という思いが出てきていますね。そのぶん、ライブがアーティストにとっても貴重な場になってきていて、「自分の居場所がサニーデイ・サービスにある」ということを示せる場所になっている感じがします。
エンケンさんが教えてくれたこと
――地方の小さな活動にせよ、ライブの空間にせよ、場所の重要性が増しているんですね。
田中 ライブに立つことについては、ここ最近、気持ちの入り方が変わってきています。去年、エンケン(遠藤賢司)さんとライブをやったときに、自分はステージの上でちゃんと客に名乗りを上げるんだということを言われて。「そうだよな」と思ったんですよね。やっぱり「俺は俺だ」というのをちゃんと見せるのがプロのミュージシャンである、と。当たり前のことかもしれないけど、そこに改めて気付かされたんですね。地方カフェで、30人規模のお客さんに近い距離で楽しんでもらう時だって同じです。レコーディングの形も、音楽の流通の形も変わってきていますけど、音楽する場所の重要さは変わらないものだと思っています。
取材・構成=柴那典
写真=佐藤亘/文藝春秋
サニーデイ・サービス、師走の東京・大阪ワンマンライブが決定!
『DANCE TO YOU』以降の曲を中心とした、サニーデイ結成25年目の2017年を締めくくるライブ!
<DANCE TO THE POPCORN CITY>
12/18(月)東京 恵比寿リキッドルーム
12/21(木)大阪 梅田クラブクアトロ
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ストリーミング配信のみという前代未聞のリリースで度肝を抜いた、サニーデイ・サービス最新アルバム『Popcorn Ballads』が、ついにCD・LPとして12/25に発売決定!配信時の収録内容から大幅に改訂された、全25曲100分超の壮大なミュージカル・ジャーニー!19年ぶりに行われた日比谷野音公演の模様を収めたライブDVD『サニーデイ・サービス in 日比谷 夏のいけにえ』も同時リリースです!
たなか・たかし/1971年生まれ。サニーデイ・サービスのベーシスト。2000年のバンド解散後、山下達郎氏が所属するスマイルカンパニー内の新人開発ロック部門のチーフとしてスクービードゥーのディレクション、マネージメントを手がける。退社後、国内外多くのアーティストのサポートミュージシャンとしての活動の他、スネオヘアーの作品を共同プロデューサーとして多数リリース。2008年のバンド再結成後も、声優アイドルユニットや、ボーカロイド作品までプロデュース業は多岐にわたる。2018年放映のアニメ『らーめん大好き小泉さん』では、劇伴にも初挑戦する。音楽以外では、趣味である食べ歩きの知識を活かし、CSフジ『ラーメンWalkerTV2』では乃木坂46をゲストに迎えるメインMCとして、NHK『マイあさラジオ』ではレギュラーコーナーを担当するなどメディアでも活躍中。他に、文筆業も連載を月に三本抱えるなど、多方面にわたり精力的に活動中である。