新幹線といえば、我が国の鉄道技術の粋を集めたいわば“最高傑作”。瞬く間に幾つもの街を駆け抜けて、東京〜大阪は2時間半、大阪から博多までも2時間半で結んでしまう。東海道・山陽新幹線の最高時速は実に300km/hだ。それだけの速度で走る乗り物、一体どのようにして運転されているのだろうか。きっとさぞかしスゴイテクニックが使われているに違いない……。

 というわけで訪ねたのは、新大阪駅に併設されているJR西日本の大阪新幹線運転所。そこで働く山陽新幹線運転士の七村賢治さんに話を聞いた。この七村さん、実に17年以上のキャリアを誇り、山陽新幹線運転士の中でもエース格のひとりだ。

山陽新幹線運転士の七村賢治さん

自動運転ではなかった、という衝撃

 300km/hで走る上に時間も位置も寸分の狂いなくホームに停まる新幹線だけに、やっぱり超ハイテクの自動運転が駆使されているんですよね?

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「と、私も最初は思っていました。新幹線の運転士になる前は在来線でハンドルを握っていたのですが、そこで聞く話は『自動運転』ということばかり。だから新幹線の運転士は何もしなくてもいいくらいじゃないかと思っていたんです。でも、実際はまったく違うんです」(七村さん)

 いきなり想像とは異なるお答え。現実には、停車駅に向けての減速など自動化されている点もあるものの、加速や運転速度の調整、そして速度を30km/h以下に落としてから停車するまではすべて運転士の手で行っているという。

 

「今どの場所を走っていて、あと何キロぐらいで駅につくからスピードはどれくらいだと定時で行けるか……ということを、運転士たちはずっと計算し続けているんです。もっとわかりやすく言うと、通過駅までの距離が30kmで通過定時まで6分ならば300km/hで走れば大丈夫。同時に、運転中には列車密度やお客様の乗車率、天候などの環境に応じて、加減速のタイミングも考えています。これもすべて、絶えず正確な運転速度を維持して、定時運転を守るためです」(七村さん)

……う〜む、なんだか難しそう。新幹線に限らず、すべての鉄道では停車しない駅の通過時間も定められている。通過時間が遅れると追い越される列車の発車時間が遅れるので、絶えず速度計算をしながら正確無比な運転を行っているというわけだ。これこそが、見習いの運転士が最初に当たる壁なのだとか。

「こんなことをするんだとびっくりでしたよ。在来線ではこんな計算なんてしませんから。計算も口で言うほど簡単じゃないし、300km/hで移動するから計算が終わったときにはだいぶ場所が進んでいる。最初は紙に書いてやっていましたが、だんだん経験するに連れてコツを覚えてすぐに計算できるようになるんです。今では計算がクセになってしまって、車を運転士ていても『あと何キロで目的地だから平均速度はこのくらいで~』とつい計算をしてしまうようになりました(笑)」(七村さん)