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火に包まれた遼太の衣服

「もういいから。外で見張ってて」

 虎男は剛を追い出すと、オイル缶を出し、液体を服にまきはじめた。オイルのにおいがトイレに充満する。

 服にオイルが十分に染(し)み込んだのを確かめ、虎男は火をつけた。服や靴にボッと炎が上がり、燃えはじめる。虎男と星哉は衣服が火に包まれるのを見届けてから、自転車に乗り、急いで現場を立ち去った。

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 その後、虎男は、剛に公園に引き返してちゃんと衣服が燃えたかどうか確かめてくるよう命じ、自分は星哉とともに先にマンションへもどった。

 剛は言われた通り、1人で公園に向かった。女子トイレの中からは大きな炎が立ち上り、老人がそれを見つめていた。炎は相当な勢いだった。剛が声をかけてみると、老人は答えた。

「もう通報したよ」

 119番に通報したということなのだろう。剛は老人に火を借りて煙草を吸いはじめ、少しの間炎を見つめていた。だが、警察がやってきて事情聴取されるかもしれないと不安に駆られ、立ち去ることにした。

©iStock.com

 この後、剛は虎男と星哉と合流した。防犯カメラには、星哉がマンションの北側出入り口を飛び越えて中に入る一方で、虎男と剛は正面のエントランスから顔を隠すようにして帰ってくるところが録画されている。

 それから約2時間半、3人はマンションですごした。事件について語ったのは、「今夜のことは黙っていよう」と口裏を合わせた時だけ。それから夜明け頃まで、殺害のことなどなかったかのように、携帯電話でゲームをやって遊び、午前5時35分にマンションを後にした。

 信じがたいことに、これ以降、3人のLINEの履歴には事件のことを綴(つづ)った言葉がほとんど見当たらない。やりとりされているのは、お互いの様子確認とゲームに関するメッセージばかりなのだ。

 この日から逮捕まで虎男たちのLINEの記録で、具体的に事件について触れられているのは1回だけ。事件の翌日の21日のことだ。おそらくワイドショーか何かで遼太の名前が出たのを知ったのだろう、剛が虎男にこういうメッセージを送っている。

〈ニュース見た?〉

 それ以降、LINEの履歴には、事件のことは一度も出てこない。