22歳、プロ4年目で脳腫瘍の宣告。18時間に及ぶ大手術、2年間の闘病とリハビリ、回復しない視力、24歳での引退試合……。絶望と苦しみの日々を乗り越え、再び甲子園に戻ってきた男が見せた雄姿はいまだプロ野球ファンの記憶に新しい。
ここでは、横田慎太郎氏の著書『奇跡のバックホーム』(幻冬舎)の一部を抜粋。引退試合で走者を刺殺した“奇跡のバックホーム”の舞台裏について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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プロ6年間のベストプレー
「センターに入れ!」
1096日ぶりの公式戦。タイガースが2対1でリードしていた8回表、ツーアウト二塁の場面で平田監督に命じられ、僕は緊張して守備位置に向かいました。
「よし、来い!」
そうしたら初球です。大きなフライが本当に飛んできた。
「うそだろ……」
「代わったところに打球は飛ぶ」とはよく言われますが、まさかいきなり来るとは思っていなかったので、ちょっと焦りました。
打った瞬間、どんな打球かは感覚である程度わかりましたが、ボールは見えていませんでした。高く上がったボールは見えにくいのです。ただ、これは見えていても届かない打球でした。ボールは僕を越え、センターオーバーの二塁打。同点になりました。
代走が出て、バッターは6番の塚田さん。
その2球目、塚田さんが打ち返した打球は、僕の前にライナーとなって飛んできました。よりによって、いちばん見えにくい打球が飛んできたのです。
正直、一瞬思いました。
「これが最後のプレーかよ……」
それでも、気がつくと僕は足を前に踏み出していました。そうしてボールをキャッチすると、次の瞬間、大きく右足を踏み出し、ダイレクトでキャッチャーに送球しました。
ボールはノーバウンドでキャッチャーのミットに吸い込まれました。タッチアウト。
鳥肌が立ちました。プロ生活6年目の最後に、生涯ベストプレーを見せることができたのです。
おこがましさを承知で言えば、このバックホームがタイガースを奮い立たせたのかもしれません。同点となった試合は8回裏、先頭打者の江越さんのツーベースを皮切りに、板山さんがレフト前に運んでチャンスを拡大。タイガースが2点を追加して4対2となりました。そして、9回のソフトバンクの攻撃を無失点で抑え、タイガースが勝利しました。
僕も8回に引き続き守備につきましたが、幸か不幸か、今度は打球は飛んできませんでした。
こうして僕の最後の試合は終わりました。