「それでは椅子を倒しますね」
座っていた椅子が倒れていくのに連れて患者が仰向けの姿勢になり、目元にタオルがかけられる。
歯医者では、治療のために強いライトが当たることや医者の顔が近づくことへの配慮で、タオルやガーゼで目隠しをされるのが一般的だ。
しかし、患者が「見えない」ことにつけこんでキスをする歯医者がいたとしたら……。
6月30日に宇都宮地裁で、タオルで目を覆った20代の被害女性A子さんに治療中にキスをしたとして準強制わいせつ罪に問われていた栃木県壬生町の歯科医・武田博也被告(40)は懲役1年2カ月(求刑懲役2年)の実刑判決を言い渡された。
宇都宮市内の歯科クリニックに勤務していた武田被告が栃木県警に逮捕されたのは、約1年半前の2019年11月。「キスはしていない、まったく身に覚えがない」と否認し、公判でも一貫して無罪主張を続けた。
目隠しをされている状態で胸に感触が
判決文によると、2018年5月頃からA子さんは武田被告が当時勤務していた歯科クリニックに通院を始めた。
異変はすぐに起こった。A子さん側の主張によると、3回目頃の通院時に、胸の上半分に手のひらがあたる感覚があったという。しかし目隠しされている状態のため、何が当たったか、それが故意だったかを判別することは難しい。
しかしその後も胸への感触が続いたことから、担当医を替えてもらおうとA子さんはスマートフォンのカレンダーに「胸」と入力していた。A子さんは交際相手の男性など周囲にも相談していたが、「気のせいじゃないか」と取り合ってもらえなかったという。
A子さんが治療中に胸の上で手を組むようにすると、触られる感覚はなくなったが、しばらくすると"別の異変”が起きた。治療前や治療の合間に口をゆすいだ後、タオルで目隠しがされている状態のときに、唇に何かがあたる感覚が起こり始めたのだ。
「やわらかくて人肌の感触があった」「何度目かには吐息がかかるような感触があった」(A子さん)