「薄氷の上を歩くような危うい判決文」
性犯罪事件を多く手掛けるアトム法律事務所の高橋裕樹弁護士は判決についてこう解説する。
「1年2カ月という量刑自体は妥当だが、被告人の体液やカメラの画像など客観的な証拠がなく、薄氷の上を歩くような危うい判決文だ。被告も全面否定しているので、控訴されればひっくり返る可能性もある」
実は、歯医者の治療中のわいせつ行為は決して珍しい事件ではない。2019年1月に神奈川で準強制わいせつ容疑で29歳の男性歯科医師が逮捕され、11月には奈良でも43歳の男性歯科医師が女性患者の胸を触ったとして同容疑で逮捕されている。
いずれも適用された罪は準強制わいせつ罪。抵抗できない相手に対するわいせつ行為で、法定刑は強制わいせつ罪と同じ「6カ月以上10年以下の懲役」である。
性犯罪の取材経験も多い大手紙社会部記者はこう話す。
「歯科医に限らず、医師による医療行為と称したわいせつ事件は多く発生しています。信頼して身を委ねなければ治療行為ができないという医者の立場を利用した極めて悪質な犯罪ですが、密室なので証拠不足で無罪となるケースも多い。2019年3月には全国で相次いで性犯罪の無罪判決が出て社会問題化するなど、各地でギリギリの裁判が続いています。冤罪で有罪になる人を出してはいけないのは当然ですが、事件化していないものも含めれば多くの被害者がいるのも間違いない」
泣き寝入りしないための対応について、前出の高橋弁護士は「被害に遭われた方はすぐに警察に行くなり、加害者の体液をとっておくなりすることが重要です。今回のケースであれば、その場で110番通報して警察官を呼び、唇などから証拠採取してもらうなどの方法もあったと思います。犯罪から身を守る方法が広がってくれれば」と語った。