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 もしかしてキスされているのではないかと疑い始めたが、歯医者では口腔内や唇に指が当たることは多いため言い出せずにいた。それでもA子さんは唇に何かがあたる感覚があるたびに、カレンダーに記録するようになった。

 2018年の12月に入ると、口元にかかる吐息を強く感じたことから「キスされた」と記録した。

 2018年12月19日も、午前10時45分ごろからA子さんは武田被告の治療を受け始めた。

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写真はイメージです ©iStock.com

 A子さんがいつものように椅子に座ると、ゆっくりと倒されていく。頭の上の位置にいた武田被告が目元にタオルをかけている最中に、またしても唇にやわらかいものがあたる感触があったのだ。

 武田被告の両手はタオルをつかんでいるため手や指が触れたということは考えにくく、A子さんは「キスされている」と確信したという。この日は治療の合間にもう一度唇に感触があったことから、A子さんは携帯に「2回キスあり」と記録。耐えられず会計時に「先生を替えてほしい」と受付に相談し、そこから事件が発覚した。

「歯科医師としての立場を悪用しした卑劣なもの」

 裁判で争点になったのも「12月19日に武田被告がキスしたかどうか」だった。武田被告は「全く身に覚えがない」と真っ向から否定し、「キスはしていない」と証言して全面的に争った。

 武田被告の弁護側は「A子さんらが示談金名目の金銭要求ができると思って警察に相談したのではないか」「胸を触られたりキスをされたりしていたとしたら継続して通院していたのは不自然だ」「A子さんの話だと、武田被告がキスするのは困難な姿勢だ」などと主張した。

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 しかし担当した山下博司裁判官は弁護側の主張をいずれも切り捨て、検察側に軍配を上げた。「歯科医師としての立場を悪用した卑劣なものである上、キスをするというわいせつ行為の様態も軽いものではなく、被害者が受けた精神的苦痛は大きい」とした上で、「不合理な弁解に終始して反省の態度は全く窺えない」と執行猶予も認めず懲役1年2カ月の実刑判決を下したのだ。