かつての日本海軍主力戦闘機・零戦を、日本人で唯一保有している人がいる。36年海外在住の石塚政秀さん、56歳。今年6月、72年ぶりに東京湾上空を飛行し話題となったが、「零戦を売ります」という。でも、お高いんでしょう?
◆
購入価格は3億5000万円
――どうして売りたいのですか?
石塚 本業のファッション・ブランドの経営も厳しい中で、もうお金の限界です。零戦を日本で維持管理するには、ざっと年間2000万円かかるんです。保険で1000万円、駐機代に整備費、確認飛行にかかる費用で1000万円。私はこの零戦を2008年に購入し、10年間私財を費やして維持してきましたが、もうこれ以上は無理というところまできました。海外での会社経営から購入した自宅も牧場も車も所有していた船も売却してしまいました。
――そもそもいくらで買ったのですか?
石塚 3億5000万円です。
――3億5000万円! それは妥当なお値段なんですか?
石塚 イギリスのスピットファイアー、ドイツのメッサーシュミット、アメリカのP-51マスタング、P-38ライトニングなど海外の戦闘機と比較しても、だいたいこれくらいだと思います。高い買い物をしたとは思っていません。唯一オリジナルの中島「栄」エンジンで飛んでいる零戦52型は20億円の値札が付いていますし。
――しかし、どうして零戦を保有しようと思ったのでしょう。
石塚 元々は、ある地方自治体からの「建設予定の博物館に零戦を展示したいので、機体の購入を手伝って頂けませんか」という打診から話は始まります。私はニュージーランドでレザージャケットメーカー「THE FEW」というファッション・ブランドの会社を経営していて、特に大戦期のアメリカ空軍、海軍のフライトジャケットを扱ってもいるものですから、自然と国内外の航空関係者、飛行機のコレクターと知り合うことが多いんですね。いわば世界各国の航空関係者との航空コネクションがあるのです。
リーマンショックで計画頓挫。私が自費購入することに
――よく石塚さんにたどり着いたものですね。
石塚 私が航空専門誌中で零戦を紹介した記事をを目にして、私のことを知ったようですよ。ところが私が航空雑誌で紹介した零戦の機体は、パールハーバーの博物館に先に買われていました。そこで、アメリカのバイクレーサーでコレクターとしても知られるボブ・ハンナ氏が所有する零戦に可能性はないか賭けることにし、零戦の復元エンジニアとしても知られるブルース・ロックウッド氏に打診してもらい、日本里帰りということで譲ってもらうことになったのです。
――それで博物館に展示されたんですか?
石塚 ところが2008年のリーマン・ショックで自治体が買う計画が頓挫しちゃったんです。私はボブ・ハンナとの零戦購入契約の保証人となっていましたので、契約履行責任を取って買い取らなければなりませんでした。