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「上司の仕事を、早く私ができるようになりたい」

 数社の面接を受ける中、呉は歯科医療の関連機関と治療者たちとを結びつけるプラットフォームビジネスを展開する「メディカルネット」に就職を決断する。いよいよ、“日本で日本企業に勤める”という呉の夢は実現する。

「社長の人柄もありました……韓国では社長はずっと遠い存在って感じですが、平川(裕司)社長はとてもフレンドリーでした。インターネットビジネスは、ずっとやりたかったですから」

――韓国と日本とをつなぐ役割をしたいと言ったそうですね?

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「飾る言葉を使ってしまって……。そうした思いもあるのですが、もっと現実的というか……」

 断っておくが、彼女が日本語を勉強し始めたのは4年前。にもかかわらず、彼女の日本語は淀みがなく語彙も豊富だ。

――ベンチャー企業を選んだということは、日本でビジネスを身に付けて、将来は日本や韓国でベンチャーを起こしたいのですか?

 呉の答えは少々意外だった。

「ベンチャーを興そうとは思っていません」

 彼女はそう断言して、次のように続けた。

「私が任されているポータルサイトの会員数を2倍にするとか、現在の上司がやっている仕事を、早く私ができるようになりたいです。そうすれば、上司はもっと上の仕事を任せられるようになるから」

韓国・ソウルで行われた面接会の様子(「K Village Tokyo」提供)

「ここまではっきり口にする日本人社員は……」

 これほど仕事への忠誠心を露わにして、誠実さを口にする日本人は少ないのではないだろうか。同社の人事担当者も、こうした呉の率直さは驚きだったようだ。

「ここまではっきり口にする日本人社員は、ほとんどいませんね」

 しかし、この“忠誠心”も自らを「経営者と言うより、部署のリーダータイプ」と捉えている呉にとって違和感はまったくないようだ。

 彼女が働き始めておよそ1年。当初は、自分の日本語が果たして通用するのか、日本人社員たちとうまくできるのか、そして仕事をこなせる能力はあるのかと、不安ばかりだったという。

 しかし、今はすっかり慣れ、「日本での生活が楽しくて仕方ない」と呉は語る。

 もうすぐ、韓国の後輩が、やはり日本のIT企業に就職し、日本での生活を始めるという。呉の周辺で「日本で日本の企業に勤める」という選択をした人間は数人だというが、呉が参加した2019年に「K Village」が行った面接会では383名が参加し、94名が17社の日本企業に採用された。同社によれば、94名は今も採用された企業で働いているという。

 新型コロナの感染拡大がなければ、「韓国での採用数も倍々で伸びていたのではないか」と同社では見ている。現在は韓国での採用イベントは中止されているが、コロナ禍が落ち着けば再開する予定。なにより日本企業からの要望も強いのだという。