2019年4月19日、正午過ぎ。警視庁記者クラブに「池袋で事故 怪我人10」という速報が飛び込んだ。上空を舞うヘリが捉えたのは、原型をとどめないほど大破したごみ収集車と、散乱する廃棄物――まるでテロ現場のような惨状だった。

 逮捕されなかった加害者・飯塚幸三は、なぜ異例の実名報道となったのか? 12人が死傷した「池袋高齢者暴走事故」の裏側で、一体何が起きていたのか?

 記者として長年、同事故を取材してきたTBSテレビの守田哲氏の新刊『池袋高齢者暴走事故 遺族と加害者家族の2060日』(文藝春秋)より、「実名報道の根拠」をお届けする。(全3回の3回目/最初から読む)

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実況見分に立ち会う飯塚氏(写真:時事通信社)

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「池袋で事故 怪我人10」

 二〇一九年四月一日、「令和」の新元号が発表された。「退位礼正殿の儀」を一一日後に控えた四月一九日金曜日、私は千代田区霞が関の警視庁本部九階(当時)の警視庁記者クラブで仕事をしていた。いわゆるサツ(警察)回りの記者は、新聞やテレビなど会社ごとに壁で仕切られた細長い部屋で待機している。午前一一時三〇分からの定時ニュースが終わった正午過ぎ。

 当時は皇室ネタが熾烈なスクープ競争の対象となっていた。私はこの日のニュースの冒頭で「天皇陛下の即位に伴うパレードのルート判明」というスクープを出稿し、気が緩んでいた。

 午後〇時四〇分、LINEを確認すると、捜査関係者から五分前に「池袋で事故 怪我人10」というメッセージが入っていた。事故は速報性が肝だ。メッセージに気づかなかったことを後悔した。

「ヘリ出しましょう!」

 私はキャップ(記者クラブの責任者)に叫んだ。成人女性と子供が意識不明という情報が入る。