現場では消防が引き上げた後も各所に規制線が張られ、立入禁止のエリアは広範囲にわたった。真菜さんの靴が落ちていた公園にも入ることもできなかった。
交通捜査課の交通鑑識が専門の女性警部による指揮のもと、数十人の捜査員が実況見分を行った。交通鑑識とは、現場の遺留品やブレーキ痕などを科学的に分析し、事故原因を特定する捜査のことだ。事故車両は民間の専門業者によって立川市にある警視庁の多摩総合庁舎にレッカー搬送された。
道路には車の破片、被害者の麦わら帽子…
道路には無数の車の破片とともに、真菜さんの麦わら帽子、莉子ちゃんのヘルメット、毛糸製の二つのポーチが落ちていた。このスイカとレモンの形をした、約二〇センチメートル半円状のポーチは、莉子ちゃんのお気に入りだった。
そして、これらの遺留品は、奇くしくも飯塚の車の右前輪から外れた直径四一センチメートルのホイールキャップを囲むようにして現場に落ちていた。捜査員はこれらを含む主な遺留品二八点を次々に撮影して回収した。また、車両の走行距離や衝突地点の位置関係についても、巻き尺などを使い正確に割り出していった。
「目撃者の方はいらっしゃいませんか!」
事故捜査は、客観的証拠だけではなく、目撃者の証言も重要な要素になる。そのため、白バイ隊員が「目撃者の方はいらっしゃいませんか!」と拡声器で呼びかけた。
実況見分が終わり、規制線が解除されたのは、事故から六時間後の午後六時二〇分だった。
池袋暴走事故は連日トップニュースで報じられ、怒濤の取材の日々が始まった。実は、私は学生時代に南池袋に住み、今の自宅も池袋駅から遠くない場所にある。この地理感覚がその後の取材に活きるとは思いもよらなかった。